お寺さんが日常から遠い存在になって久しくなります。“葬式仏教”と揶揄(やゆ)される時代に檀家離れや墓仕舞いが進んでいます。そうした中、「カレーライス」を誰彼なく一緒に食べて、高齢者も子どももお父さんもお母さんも同じ時間を過ごすことで、その存在意義を問うお寺があります。
お寺は怖いところなのか?葬式の時にしか行かなくなってしまったところなのか?そもそもお寺の役割は何か?北海道の人口1万人余りの小さな町で、ある寺院が試みる地域のつながりを考えます。
【ひとつ前の記事】「檀家離れ」に悪あがき 北海道発・「カレーの日」でにぎわう寺院の試み#1|お寺は怖いか
(母)「お年寄りも子どもも、世代を超えて集まることができるのがいいです」(父)「一緒に食事をすると、知らない人でも親しみがわきますよね」
(息子)「ここに来ると、まったく知らない人からも声をかけてもらえてうれしいです」
「こういうことでもないとさ、みんなと会う機会がないんだよね」
「『カレーの日』が100回になるまで頑張るよ」
去年12月の「カレーの日」は数えて50回目を迎え、食事会の後、本堂では津軽三味線と和太鼓の演奏会も行われ、町民らは大盛り上がりの一夜を過ごしました。
毎月開催されて来た「カレーの日」の初回は8年前のことでした。当初、「寺はカレー屋になったのか?」と陰口をたたかれたこともあったそうです。しかし町の人口減少と檀家の都会への流出は止まらず、そもそも人が集い学び合うお寺で何かできないか…と続けた試行錯誤の核となるイベントが「カレーの日」でした。
帰厚院の住職、成田賢一さん(47歳)が行っている地域の活動はほかにもあります。例えば貸自転車です。岩内町はニセコエリアに隣接しているため、最近は外国人客が町内を散策したり、お寺にふらりと訪ねて来ることがあるそうです。そうした観光需要に貸自転車を無料で用意して、「ゆったり、町を見てほしい」と住民との交流を期待しています。
また学習塾が主催する「漢字・計算コンクール」の会場にお寺を提供して、子どもたちの学力向上にも一役買っています。
さらには、地域の人たちや街の出来事を町内外に事細かく伝えるため、「岩内サイクル新聞」と称するミニコミ誌を毎月発行しています。同誌は毎月3,000部印刷されて、学校や商店街、町内外の関係者らに配布され、今年の元日号で34号を迎えました。今回は「おめでとう!新成人」と題する特集で、成人式を迎える若者の抱負や町民らからのエールをアットホームなタッチで綴っています。このミニコミ紙は、一般社団法人日本地域情報振興協会(東京)が主催する「日本地域情報コンテンツ大賞2023」で紙媒体部門の3位にも選ばれ、全国にその活動が伝えられました。
「人口1万人足らずの岩内町では、過疎が進んでいます。檀家さんも減っています。それは社会的な流れで、仕方がないのかも知れません」
「でも、そのことを悲嘆するのは嫌なんです。『元気で頑張っています』という姿勢が大切なように思っています。子どもたちには『身近にある小さな幸せに気づきなさい』と話しています。岩内町は自然も人情も豊かで、札幌や小樽にも近く、静かに暮らすには魅力あふれる所です。おじいちゃんやおばあちゃんと接することで、学べることもたくさんあるように思うんです。夢を持って、同時に『小さな幸せに気づきなさい』と伝えています」
「カレーの日」の集いは、まさにその「小さな幸せ」を実感できるひとときなのかも知れません。
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*文・写真 HBC油谷弘洋
*この連載は、帰厚院の催事や活動に合わせて、今後も不定期で出版してゆきます。