2020年、桃井さんは北海道大学を卒業し、札幌地域労組に就職した。現在は書記次長として活動する。札幌地域労組は非正規雇用やパートなど一人でも加盟することが可能で、職場に労働組合がない人たちの「駆け込み寺」とも言われる。年配の男性が多い労働組合の職員のなかで、20代女性の桃井さんはひときわ異彩を放つ。
「あしたの予定を確認させていただきます!」
4月24日深夜、桃井さんは立ち上がり、自分の親ほど年齢の離れた組合員にむけて説明をはじめた。北海道千歳市で路線バスを運行する会社の会議室。会社側との数時間におよぶ団体交渉は決裂し、札幌地域労組千歳相互バス支部は翌日のストを決めたばかりだった。
桃井さんたちは午前3時近くになって、ようやく会社から出てきた。
「運転手さんたちの闘いが全国に届いて、私たちには声を上げるチカラがあるんだよということが、この闘いから伝わっていけばいいと思います」
ストは決行された。ほどなくして組合は4年ぶりの夏ボーナスを勝ち取った。
札幌地域労組は、労働運動で次々と結果を出している。
例えば2020年、北海道栗山町のキノコ工場で働くベトナム人技能実習生17人が突然一斉解雇された。新型コロナウイルスの感染拡大で実習生たちは帰国することができず途方にくれていた。札幌地域労組が支援に動き、団体交渉。会社側が解決金を支払うことで和解が成立し、キノコ工場で働くこともできるようになった。
2022年、有名タレントが社長を務め、生キャラメルで有名な会社が、ベトナム人従業員約40人に対し「契約期間満了」だとして、雇い止めを通知した。きっかけは寮の水道光熱費の値上げに抗議するため、ベトナム人従業員がストライキを行ったことへの報復だった。会社は謝罪し、すでに退職していた従業人に解決金を支払った。
桃井さんは会社の対応に憤る。
「ストライキ自体は正当な権利なのに、(会社が従業員に損害賠償を求めて)『50万円払え』とか報復されてしまうと、会社に不満があったり、政治に不満があったら、どうやって声を上げればいいのかという話ですよね」
吃音に悩み続けた10代。声を上げれば社会が変わることに気がついた学生時代。その声を権力によって奪われたヤジ排除。桃井さんの裁判の闘いは、元首相銃撃事件という大きな渦に巻き込まれながら、予想外の展開を迎える。
語り:落合恵子 取材:長沢祐 制作・編集・監督:山﨑裕侍
プロデューサー:山岡英二 磯田雄大 鈴木和彦
撮影:大内孝哉 谷内翔哉 村田峰史 編集:四倉悠策 MA:西岡俊明 音楽:織田龍光
製作:HBC北海道放送 配給:KADOKAWA 宣伝:KICCORIT
2023年/日本/100分/ステレオ/16:9 ⒸHBC/TBS
【道内・上映情報】
シネマ・アイリス(函館 )1/5(金)~18(木)
シネマ・トーラス (苫小牧 )1/20(土)~2/2(金)
※シアターキノ(札幌)は今月12日まで上映しています。
※2024年12月の情報に基づきます。
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文:HBC報道部