2023.10.30
暮らす“私らしい暮らし”を実現するための選択肢として 「IT」業界の可能性に注目。多様なロールモデルを、札幌のIT業界で働く人々の取材を通して探っていく連載【ITで、もっと私らしく】。
前回⇒「自分の時間はほぼ無い。でも楽しい!」 北海道から世界へ繋がる仕事と、3人の子育てと。
今回は、北海道大学発のAIベンチャー企業である、株式会社 調和技研に勤める但野友美さんと、大塚茜さんにお話をお聞きします。
お二人とも道外に住みながら、札幌の企業に勤務し、育児とも両立できる”私らしくいられる仕事“を見つけ、イキイキと活躍されています!
株式会社調和技研
北海道大学での研究成果を、社会に実装することを目的に2009年に設立された、大学発のAIベンチャー企業。「言語系」「画像系」「数値系」の3領域を柱に、150を超える開発実績に裏付けられた豊富なノウハウを生かし、企業に対して最適なAIの開発・運用支援等を提供している。複数の大学AI研究室等と連携することで、学術レベルの研究開発力を誇る。詳細は公式HPにて。
— お二人は本日どちらから……?
但野さん:私は栃木です。当社の拠点は札幌と東京、バングラディッシュの3箇所で、社員は私だけでなくほぼ全員が普段からフルリモートで働いています。
大塚さん:私は福岡に住んでいます。
— お子さんがいらっしゃるお二人。どのように働いていますか?
但野さん:7歳の娘がいます。当社はコアタイムなしで1ヶ月間で、決められた労働時間を満たせば時間は自由に調整できる「フルフレックスタイム制」を取り入れています。私はさらに「育児時短勤務制度」も活用しています。月~木曜日は、お客さんとの打ち合わせも多く、長めの勤務となるので、その分、金曜日は軽めにし、家庭の対応をまとめて取り組んでいます。
大塚さん:私は4歳と1歳の娘がいます。私も平日の5日間、16時半までで仕事を終えて、子どもをそれぞれ幼稚園・保育園に迎えに行っています。子どもの行事のときには中抜けができるなど、その時々の都合に合わせて動けるのはありがたいです。
— 道外にいらっしゃるとのことですが、札幌の会社に入社したきっかけは?
大塚さん:以前はIT企業に勤めていたのですが、夫の仕事の都合で引っ越すことになり、前職を退職したという経緯があって、新しい仕事を探していました。今後もいつどこに引っ越すかわからないという状況で、正社員として長く働くためにフルリモートを第1条件に、できれば前職と同様にAIを中心としたシステム開発に携われたら良いなと探してみて、合致したのが当社で、ことしの4月に入社しました。
但野さん:私は、もともと北大の調和系工学研究室の出身で、博士課程在籍中の2009年に、川村秀憲先生のもとで当社を立ち上げたメンバーの一人なんです。2年くらい活動し、博士課程修了時にいったん道外の他の研究所で働いたのですが、妊娠・出産を機に離職していたところを、4年前の2019年に川村先生から「フルリモートで良いから」とお声がけいただき、戻ってきました。
コロナ禍前だったので、リモート勤務は周りでなかなか聞いたことがなかったのですが、当社は先駆けて導入してみたいということで。結局、コロナ禍を機にほぼ全員がリモート勤務体制になり、おかげで大塚さんのように優秀なエンジニアが全国から集まってくれるようになりました。
— 人材を全国から集めたいというくらい、AIのニーズは大きいと思うのですが、現在、お二人はどのような業務を担当されていますか?
但野さん:私はコンサルティンググループのリーダーとして、製造業から小売業、インフラ、その他各種サービスまで、多種多様な業種のお客様からご相談を受け、課題の整理から導入するシステムの提案、実装、運用まで一貫して担当しています。大学の先生方と日常的に連携していて、最先端の技術で応えられる強みを持っているので、大手企業様からの相談も多くあります。
— 調和技研さんが関わっているもので、私たちにとって身近な例はありますか?
但野さん:例えば、私が主に担当する「数値系」(蓄積したデータから予測や最適化を行うシステム)の中で言えば、旭川の給食業者様と提携し、1日3食・1ヶ月間の献立を作成する「自動献立システム」の共同開発プロジェクトがあります。
高齢者施設や幼稚園など、利用者に合わせた栄養価にするだけでなく、彩り、味付け、ジャンルなど、日々の食事のバリエーションを出し、飽きがこないようにしています。
献立作成担当の栄養士さんの負担が減ったことによって、人手でしかできないような、きめ細やかな個別対応の充実に取り組めるようになります。
例えば複数のアレルギーをお持ちの方には、どうしても似通ったメニューが多くなりがちですが、栄養士さんの専門知識を活用し、メニューのバリエーションを増やすような業務に時間をさけるようになります。
— AIで従来の作業負荷が軽減した分、サービスの充実に栄養士さんの力を割けるようになったんですね!
大塚さん:私はことしの4月に入社したため、現在の業務は、これから参画する案件に備えた技術調査が中心です。
私が所属するグループでは画像系AIを開発しています。画像を解析し製品の不良を発見する技術や、写真から病気を診断するシステム、あとはこんなものも……
AIで人の顔写真を浮世絵風に変換する「UkiyoLator(ウキヨレイター)」の開発です。
2017年に開始したもので、初期は上の画像のように、その人らしさを残すことができなかったのですが、現在は下の画像のレベルまで進化しました。
さらに、「葛飾北斎風」など指定作家の作風で再現することにもチャレンジしています。
日本が世界に誇る貴重な文化を蘇らせ、現代の人にも魅力を再発見して親しんでいただくことになればと期待しています。
(編集部注:実際に試してみたい方は「https://ukiyolator.web.app/」を検索ください)
— 面白いだけでなく、社会的意義もあるのが素敵ですね!
但野さん:当社のもう一つの柱「言語系AI」では、ChatGPTを活用したものが多くあります。
例えば、当社は子会社があるバングディシュをはじめ、英国、ジャマイカなど多国籍のメンバーが在籍しているため、普段のオンラインでのやりとりにも日本語と英語が入り乱れているのですが、ChatGPTと連動させ、即座に翻訳されるようにすることで、スムーズにコミュニケーションできるようにしています。
— そんなことまで!かなり便利ですね。
— 改めてAIの魅力って、何だと思いますか?
但野さん:私は、この分野には本当に未来があると思っていて。調和技研を立ち上げてから10年以上経っていますけれど、その発展が目覚ましいなっていうのが第一の魅力だと思っています。
私が学生時代に東京で就活した時って、電車の乗り換えがとても大変で、路線図を見て、ここに行くためにはこれに乗って次に……とやらないといけなかったんですけれど、もうそれが今はスマホを1人1台持っていて、簡単に調べられる、乗り過ごしてしまってもすぐに再検索ができるって、革命的じゃないですか?(笑)
そういったところの最先端の一端にでも携われるというのは、すごく魅力的に感じています。今後は私も、社会のあり方を変える技術、次世代の社会のベースになっていく製品を一つでも世に出せると嬉しいです。
大塚さん:私は、進化したAIが、予想していなかった返事を返してくるところに魅力を感じます。
ある操作に対して決められた応答をさせるシステムは一般的ですが、ChatGPTなどAIの場合はこちらが指定するプロンプト(文章)が同じでも毎回違う答えを返してきたり、画像生成AIで初めて見るようなイラストが生成されたり。
どんなものが返ってくるのだろうとワクワクしながら取り組んでいます。
— AIの未来というところで、人間とAIの関わりはこれからどうなっていくと思いますか? 例えばAIが作品を作れてしまうことで人間が要らないんじゃないかとか、人の仕事が奪われてしまうという説も出てきていますが・・・
大塚さん:私は人の仕事が奪われることはないと思っていて、逆に人が仕事をする助けになるツールがAIかと思っています。
画像生成や他のAIについても言えることですが、学習しているデータはそもそも人が作ったものなので、人が良いデータを作らないと、AIもそれらしいものを出力してくれないですし、AIも簡単に思い通りのものを出力してくれるわけではありません。
人がこういうものをこんなふうに出力してほしいという様々な目的に合わせて調整し、手間ひまかけて面白いものや役立つものを出力させている。
AIに奪われるんじゃなく、人が使う。そういう視点で考えることが大事ではないかと思っています。
但野さん:私のモチベーションとしては献立のところでお伝えした通りで、普段やっている業務の中でコンピュータで置き換えられるものはどんどん置き換えていって、人でしかできないようなきめ細やかな対応ですとか、ホスピタリティが求められるところは、人で対応する時間を確保するというのがモチベーションになっています。
— なるほど! 最後にAIやIT業界に興味のある読者のみなさんに、メッセージをください!
但野さん:多種多様な人がAIやITに関わってほしいです。AIを使うのは、男女に関係ないですし、アプリやSNSを使っていく中で、こうなったらもっと良いのにというアイディアが生まれてくると思うんです。
大塚さん:IT=理系というイメージが持たれがちですが、IT業界には、文理問わず活躍しているエンジニアがたくさんいますし、ぜひ多くの人に挑戦してほしいです。
あとは、私が子どもの頃、ゲームが大好きだったんですが、当時はゲームは男の子のものという印象が強くて、男の子が遊ぶものと普通に思われている雰囲気もありました。
でも今は男女関係なくゲームをしますし、女性が好きなアプリもたくさんあり、先入観がなくなってきているはずですので、女性のIT人材が増えていってくれればと期待しています。
— 貴重なお話、ありがとうございました!
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暮らしを豊かにするAIの可能性の大きさを改めて実感するとともに、そんなAIをご自身の手で生み出せることにやりがいを感じているお二人のイキイキした表情がとても印象的でした!
次回は、本連載企画の締めとして、モバイルアプリ開発に強いIT企業で働く、新人エンジニアさんが登場予定です。ぜひ最後までお楽しみに!
共同企画:一般財団法人さっぽろ産業振興財団
文: にの瀬
編集:ナベ子(Sitakke編集部)
取材日:2023年9月