全国的に暑さが厳しかった今年の夏。行動制限のない3年ぶりの夏ということで、遠方への旅行など、活動的な夏を過ごされた方も多いかと思います。楽しい夏が過ぎて、少し風が涼やかに感じられる最近、心身の不調を感じている方はいませんか?
日本よりも長いホリデイバケーションを設ける欧米からきた言葉に、“9月病”というものがあります。日本でも最近耳にすることがあるでしょうか? 秋風吹くころに起きがちで、“9月病”といわれることもある秋口の不調とその対策について、公認心理師である筆者がお伝えします。
先ほども述べた通り、9月病はもともと夏に長いバケーションをとる欧米諸国で使われるようになった言葉です。長いバケーション明けに心身の不調を訴える人たちが多く、そこからできた言葉といわれています。医学的な診断名ではなく、日本でいう“五月病”と似たものといえます。
「この症状があったら9月病だ!」というものはありません。診断名ではないので、診断基準というものがないからです。一般的には体のだるさ、やる気の低下、考えがまとまらず作業効率が低下するなどの訴えが多いでしょうか。「なんとなくすっきりしない」、「なんとなく気持ちが前向きになれない」という感じになったら、ひどくなる前になんらかの対処をしたほうがいいですね。
9月病は、“暑さが和らいだころ、夏の疲れが出てくるために起こる”という説が有力なようです。夏の暑さやいつもより活動的になりがちな時期を過ぎ、心身の疲れを自覚しはじめるのが秋口という感じでしょうか。特に今年は、久しぶりの行動制限のない夏だったので、いつもとは違う活動をされた方も少なくないでしょう。
過去の記事でも書かせていただいていますが、いつもと違うはたとえ楽しいことであってもストレスになり、精神的疲労となります。楽しい夏であっても、いつもの生活とは違うことが多い時期となった場合、知らず知らずに精神エネルギーが消耗してしまい、気づくと充電切れ。いつも通りの日常に戻ったはずなのに、前と同じようなペースで作業が進まず、なんとなく気持ちもどんより……といったことが起こります。
まずは「自分が思っているよりも心身ともに疲れてしまったんだな」と自覚しましょう。今あなたが感じる不調は体と心からのSOS 。「なんでだろう、なにが悪かったんだろう」と反省する必要はありません。「遊ぶだけ遊んだのに、きちんと仕事や勉強ができない自分はなんて怠け者なんだろう」と自分を責める必要もありません。“ストレス=いつもと違うこと”がない生活は、心の健康を維持するためにはあまりよくないのです。楽しいイベントは大事なことです。ただ、ちょっと疲れを自覚するのが遅れてしまって、ケアする時間、エネルギーを充電する時間が足りなかったのです 。
自分の体が教えてくれた心身の不調をまず自覚したら、少し休息をとりましょう。今できていないことに注目して自分を責めることはやめましょう。今の自分にとってほどよい目標(低めの設定でお願いします)を作って、小さくてもいいので達成感を積み重ねてみましょう。「なにもできなかった」と自分を責めるのではなく、「今日はゆっくりと自分の心と体を休めて充電したんだ」ととらえなおしてみましょう。あなたが「やって当たり前」と思っていることのほとんどすべては、当たり前ではありません。一つひとつをきちんとがんばったこととして評価しましょう。
札幌でずっと心理臨床に携わっていると、9月に限らず、秋は不調を訴える方が増える時期だと毎年感じます。個人的には、札幌では9月よりも11月のほうが精神的な不調を訴える方が増えます。それは、これから訪れる長い、厳しい冬を考えてストレスを感じるという背景があるかと思います。日照時間が短くなるのも大きいでしょう。
もちろん「秋が大好き」という方もいますが、もし、「毎年なんだか秋は気持ちがふさぎがち……」という方は、この時期はなるべく心理的な負担が大きいことが続くような計画を立てることは避けましょう。避けられない場合は、それ以外の時間をいつもよりゆったりと、自分が「したい」と思うことを優先するようにしましょう。
休みたいときはきちんと休んで。充電ができたら、きっとまたあなたらしい日々が送れるようになるはず。焦らずに自分のペースを取り戻せるまで待ってあげましょう。
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文:竹原久美子(公認心理師/婦人科クリニック勤務)
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【ライター:竹原久美子 PROFILE】
中学時代、寄り添ってくれる人の大切さを感じ、心に寄り添う仕事につくことを決める。
「人生の始まる現場で学びたい」と産婦人科での実習を希望し、そのまま、産婦人科で女性の心に寄り添い続けてもうすぐ20年。
土地柄を肌で知っていることは心の理解にも役立つという想いで、地元札幌で臨床に携わり続けている。
【画像】CORA、Luce、CORA、shimi、kabatyan、kapinon / PIXTA(ピクスタ)