「チャイルドライフスペシャリスト」という存在を、ご存知でしょうか。
いま北海道内で活躍しているのは、わずか2人。
いったいどんな人たちなのでしょうか…取材しました。
連載「じぶんごとニュース」
千葉梓さん。日本で50人ほどしかいない、小児科病棟で働く「専門職」です。
ここは札幌にある、手稲渓仁会病院・小児科病棟。
これから手術を受ける子ども、そして治療を乗り越えてきた子どもが入院しています。
千葉さんの首には、ツライ治療の中、子どもたちを笑顔にするアイテムが。
「CLSが結構持っていたりするんですけど『魔法の杖』ってアメリカは言っていて」
CLSとは、チャイルド(child)ライフ(life)スペシャリスト(specialist)のこと。
医療を受ける子どもや家族の精神的な負担を減らし、成長や発達を支援します。
朝日くん、9歳。20日程前、肘と太ももの骨を折り、この病院に運ばれてきました。
「子どもらしくいられる時間」を守ることは、CLSの大切な仕事。一緒にカードゲームをすることもあります。
入院、検査、手術。朝日くんにとって初めてのことばかりでした。
この酸素マスクは、子どもが手術の前に触ることができるよう準備されたもの。
他にも、カードを使って病院内の様子を説明したり。
ぬいぐるみを使って処置の様子を再現したり。
治療を進める上で、子どもたちに自分の身に起こることを理解してもらうことが大切なのです。
千葉さんはどんな人?と朝日くんに尋ねると、「優しい人」と話していました。
感染対策のため、家族でも面会は15分間だけ。この日は、お父さんがやってきました。
お父さんは、「けがした瞬間は頭が真っ白になった。精神的な部分のケアとかをしてくれて、本当にすごく助かるなっていう部分と、ちょっと離れていても安心して入院生活を送ってもらえるなと思う」と話します。
CLSの資格をとるには、アメリカの大学院にある専門コースに通い、幼稚園や小児科病棟で研修をする必要があります。
千葉さんは、「全然医療と関わりない仕事をしていたんだけど、そのとき偶然、短い医療番組をみて、それがCLSの特集だった」と話します。
日本で第1号のCLSが誕生したのは、1999年。
千葉さんがこの病院に来た12年前も、手探りの毎日だったといいます。
「“チャイルドライフスペシャリストって何だろう”っていうところから始まったんですよ。実際に患者さんに一緒に入らせてもらって、看護師やお医者さんにも体感してもらうというか。親御さんや家族をこういうふうにサポートしていくんだなっていうのを少しづつ理解してもらって」
この病院には、千葉さんが必要とされる大切な「役割」があります。
「子ども救命センター」を持つ、手稲渓仁会病院。
24時間365日、道内では受け皿が少ない重篤な子どもを受けいれています。
医療を受ける子どもや家族の支援をするCLS=チャイルドライフスペシャリストの千葉梓さんも、救急医療に関わる一員です。
看護師長は、「家族も危機的状況。家族やお子さんの様子を一緒に共有しながら、ケアや治療にあたることはすごくメリットだと感じている」と話します。
集中治療室に入り、一時は人工呼吸器もつけていたという男の子。
母親は、「パパに持ってきてほしいものとか考えようね」と声をかけます。
入院直後しばらくは、治療の関係で面会できませんでした。
「千葉さんから写真を持ってきていいよって言ってもらって、この猫の写真とか。『痛いことしない人』っていう感じなのかなって」
千葉さんは今日も、子どもと家族の笑顔を守り続けます。
手稲渓仁会病院で、共に小児救急の現場に携わる和田宗一郎医師は、CLSの役割を「子どもにとって最も大事なことを子どもの声として拾い上げてくれる存在」と話します。
そんなCLSの役割ですが、多くの場合、子どものケアを看護師や保育士、家族が担っているのが現実です。
背景には、日本はまだ、治療中心の仕組みが主流という実情があります。
「チャイルドライフスペシャリスト」という言葉を初めて聞いたという方もいるかと思いますが、医療の現場に欠かせない存在として広く周知されてほしいと思います。
連載「じぶんごとニュース」
文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部IKU
※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2023年6月13日)の情報に基づきます。
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