「近所の○○くんはいつも100点だって」「親戚の〇〇ちゃんは、こんなことができるんだって」。そして「それに比べてあんたは……」とお説教して、後から自己嫌悪になることはありませんか?
情報社会の現代、さまざまなところで「人と比べてはいけない」という文言を見かけます。比較してはいけないと思いつつ、比較して、怒って、後から落ち込む日々という方に知ってほしいことを、公認心理師である筆者がお伝えします。
そもそも、どうして比較してしまうのでしょうか? それは不安だからです。育児には、1+1=2のような明確な答えはありません。明確な答えがない中で、拠り所を見つけようとするときに、誰かと比較して同じくらいだと安心できるのです。「○○と同じだから大丈夫」と思えると、ホッとできます。
比べるのは、「子どもが社会に出たときに困らないように育てなくては」「教えなくては」と一生懸命になっているからです。だから、比べること自体が悪いわけではありません。罪悪感を持つ必要はないのです。
他の子どもと我が子を比べるとき、つい我が子の苦手なことを得意な子のそれと比べていませんか? 「勉強が得意なA君と比べて我が子は勉強ができない」「運動が得意なB君と比べて我が子は運動が苦手」と自分も子どもも追い詰めてはいませんか? もしかしたら、あなたの子どもは勉強も運動もすごく目立つわけではないけれど、バランスよくこなせるタイプかもしれません。A君よりも運動が得意かもしれないし、B君よりも勉強が得意かもしれません。“誰が一番優れている”ということはありません。みんなそれぞれです。せっかく比べるのなら、自分や子どもが苦しくなるような切り取った比較をするのではなく、全体に視野を広げて、きちんと比較しましょう。
我が子のテストの点数がひどかったとき、参観日で落ち着きのない我が子を見たとき……。人は不安になり、他の“できている誰か”と比較し始めます。その後、「でも、あの子よりはできていたからいいか」と思うことはありませんか? これも、安心するため、気持ちを落ち着けるために役立つことはあるのですが、少々注意が必要です。
「あの子よりはできていた」というのは、できていない部分を探す目を育ててしまいます。まして、「あの子よりできていたからいいじゃない」と我が子に伝えてしまうと、子どもまでできていない部分を探す人になってしまいます。人との関係に上下をつけ、批判的な人間に育っていく危険性があります。人の悪いところばかりを見る癖がつくと、人を信用できなくなり、対人関係の形成がゆがみやすくなります。できている、できていない、どちらにしても、やはり一面だけで人と比較することはやめたほうがいいですね。
繰り返しになりますが、比較すること自体は悪くないのです。比べた後の考え方、伝え方を工夫しましょう。相手の良いところ、悪いところ、得意なこと、不得意なことはそのままに受け止めて、「みんなそれぞれだね」と違いを受け入れて、楽しめるような声掛けをすると良いと思います。
「人と同じかそれ以上でいなくては……」と思いすぎて不安にならないように。まずは親が違いを楽しめるようになるといいですね。不安を和らげるために始める比較行動が、あなたや子どもを苦しめては本末転倒です。せっかく比べるのならきちんと比べる。気持ちが楽になるための比べ方を、探してみてくださいね。
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文:竹原久美子(公認心理師/婦人科クリニック勤務)
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【ライター:竹原久美子 PROFILE】
中学時代、寄り添ってくれる人の大切さを感じ、心に寄り添う仕事につくことを決める。
「人生の始まる現場で学びたい」と産婦人科での実習を希望し、そのまま、産婦人科で女性の心に寄り添い続けてもうすぐ20年。
土地柄を肌で知っていることは心の理解にも役立つという想いで、地元札幌で臨床に携わり続けている。
【画像】ふじよ、雲水、Na / PIXTA(ピクスタ)