1876年の設立以来、北海道の文化と学問の中心的存在であり続ける「北海道大学」。この連載では、現役北大生が運営するWEBメディア「JagaJaga」編集部と連携し、学生のみならず、北海道のすべてのひとへ向けた、選りすぐりの記事をお届けします。明日への活力があふれる学生たちのエネルギーをおすそわけ!
2021年、3月。コロナ禍で多くの学生サークルが苦慮する状況が続く中、北海道大学で新しいサークルが立ち上がりました。
「北大ミュージカルサークル ハルニレ」。
立ち上げたのは、北海道大学経済学部3年生の高橋学永さん。
歌・ダンス・演劇、それぞれが融合した総合芸術である「ミュージカル」の公演には、最低でも10人以上が必要だと一般的にいわれています。
しかし高橋さんは誰かとではなくたった一人でサークルを始めたというのです。
コロナ禍でのたった一人での立ち上げ。その裏には逆境さえも追い風にしてしまう高橋さんのバイタリティがありました。そしてメンバーが増えてきた今、高橋さんはハルニレでの活動を通してある「野望」を抱いています。高橋さんにお話をうかがいました。
高橋:当時、札幌にはミュージカルができる団体はありませんでした。札幌は演劇は盛んなのですが、劇団四季が撤退してしまうなどミュージカルの地盤は弱いんですよね…。
「なら作るしかないな」ということで、関東・関西の大学のミュージカルサークルの方にお話を聞いて回りました。完全に手探りの状態で何が必要なのかもさっぱり分からなかったので。
ーないなら作ろうと思えちゃうのがすごいですね…。これまでもミュージカルをされていたのでしょうか?
いえ、完全に未経験者ですね(笑)
ミュージカル自体は好きで何度か公演を見に行ったりはしていましたが、歌もダンスも演劇もやったことがありませんでした。今回の公演では僕も出演しますが、立ち上げ当初は出役になるつもりはなく、裏方をやるつもりでした。
ー経験もない中、そこまでしてミュージカルをやろうと思ったのはどうしてなんでしょうか?
とにかくミュージカルが好きという気持ちが原動力でしたね。また、一人で始めたので背負うものが何もないというのがかえって好都合でした。失敗しても迷惑をかける相手がいないので(笑)
他大学のサークルの方々に応援してもらえたことも、とても力になりました。一人でミュージカルサークルを作るという物珍しさもあったのかもしれませんが、親身になって対応してくれました。
TwitterのDMで主にやり取りしていたのですが、出身地である大阪に帰省した際には見学もさせていただきました。今年に入って、帰省して再びそのサークルを訪ねた際に、当時のことを覚えてくださっていてすごくうれしかったですね。
ーコロナ禍では、伝統ある部活・サークルでさえも対面活動ができずいかに存続させるか苦労していました。そんな状況下でつくられ、規模を拡大していった「ハルニレ」ですが、一体どのようにしてメンバーを集めたのでしょうか?
高橋:コロナ前の新歓(新入生歓迎会の略)であれば、新入生を部室に呼んで実際に活動を見せて勧誘することがほとんどだったと思います。なので部員が一人しかいない「ハルニレ」みたいなサークルでは、メンバーを集めるうえで絶対に不利だったはずです。
ですが、オンライン新歓だったのが有利に働きました。オンラインであればサークルの規模に影響されずに新歓を行えます。普通だったら一人しかいないサークルに入ろうとする人なんていなかったと思いますが、サークル紹介のパワポにポジティブなことをたくさん盛って半ばだますような形で人数を増やしていきました(苦笑)
また、メンバーが少しずつ増えてくると、今度はSNSを本格的に運用し始めました。メンバー集めはもちろんですが、観客を集めるうえでも宣伝をしっかりと行うのは重要だと感じています。
ーたしかに「ハルニレ」の広報は積極的で投稿の質も量もしっかりしていますよね。苦労した点はなかったのでしょうか?
メンバー集めという点ではオンラインのメリットがありましたが、対面での活動は制限されていたので、やはり対面で活動できるようになるまではモチベーションの維持がとても大変でした。しかし、そんな中でもメンバーから自主的に「練習するぞ!」という声が上がり、なんとか乗り越えることができたと思っています。
設立当初の自主的な雰囲気は今もたしかに続いていると感じました。練習中はもちろん、休憩中もお互いに声を掛け合うメンバーの皆さん、とても素敵でした。
自身もミュージカル未経験だった高橋さん。メンバーたちも「ハルニレ」で初めてミュージカルに触れるという人が多いと言います。
高橋:合唱やアカペラなど歌唱系のサークルやダンス、演劇をやる団体はたくさんあります。
しかし、ミュージカルをやっているところはありません。なので「ハルニレ」がやらないと北海道の大学生がミュージカルに触れる機会がないのではないかと思います。「ハルニレ」の存在意義はそこにあるのかなと。
普段の練習でも経験者に支えてもらいつつ、未経験者にもわかる練習を心がけています。僕自身の思いとしては、「ハルニレ」はミュージカルをやったことがない人がその楽しさや面白さを感じられる場になればいいなと思います。
また、「ハルニレ」は3割ほどが北大以外の大学のメンバーです。所属する大学にこだわらず、メンバーを募集しています。
実は高校生の方から入りたいというお声を頂いたりもしていて…
現在、練習の時間帯などの関係で高校生は受け入ることができないのですが、その子たちが大学生になるまで団体を続けていきたいなと感じました。
札幌演劇シーズンをはじめ、演劇の盛んな都市である札幌。
しかしミュージカルとなると身近ではなく、プロの公演は来ても仙台まで。津軽海峡を越えて来てはくれないのです。
高橋:1年目は、とにかく一度公演をするということを目標に活動していました。2年目の今年はサークル全体の底上げと、より質の高い公演を目指しています。さらに、「ハルニレ」 があることでミュージカルの文化が札幌に根付いてくれると嬉しいです。そのために今後は大学内外の団体さんと交流を増やしていけたらと思います。札幌では劇場もそこまで多くないので同じ日程にかぶることもほとんどありません。なので公演は牌の取り合いではなくて、相互協力だと思います。何かの公演を観に足を運んでくれたお客さんは別の公演にも参加してくれると思うのです。
今月3/11(土)に迫った、ハルニレの第2回公演
「THE PROM」。
あらすじ:プロム(卒業パーティー)に出席する予定だったエマが、同性のパートナーを認めないPTAにプロムを中止にされることから始まります。そこにイメージアップを図るブロードウェイの俳優たちも目をつけて…。思惑入り乱れてエマとプロムの結末とは!?
主役であるエマを演じる島田さん、エマに理解を示すトレント役の野田さん、そして脚本と演出を務めた池田さん。「田」のつくお三方に、ハルニレとの出会い、公演に向けての意気込みをお聞きしました。
同性のパートナーとプロムに参加しようとしたところ、PTAにプロム自体を中止されてしまったエマ。そんな彼女に理解を示し、「ありのままでいいじゃないか」と周囲に訴える売れない俳優トレント。
本作で、エマと周囲に働きかける重要な役どころです。この役を務めるのは野田悠太さん(北海道大学・理学部3年)。野田さんは2年前の設立から「ハルニレ」に参加しています。
少人数での設立から、第1回公演。そしてメンバーが増えて迎える今回の第2回公演。「ハルニレ」の始まりからいたからこそ、公演に一層力が入ります。
立ち上げ時からのメンバーの一人である野田さん。できたばかりのミュージカルサークルに入ることに不安はなかったのでしょうか?
野田:以前から歌うことが好きで、入学してバンドに入るかあるいは何か新しいことを始めるか迷っていました。そんな時ミュージカルサークルが新しくできたと聞き、立ち上げに関わるのも楽しそうだと思い「ハルニレ」へ入ることを決めました。不安は全然なかったですね。飛び込んでいくのが好きなので(笑)
ー設立から2年。「ハルニレ」はどのように変化してきましたか?
設立当初の対面での活動ができない時期は苦労しました。
オンラインで活動していましたが、代表以外誰もしゃべらないという日もありました…。対面での活動が解禁されて以降は少しずつみんなが仲良くなっていき、学年関係なく全員が同級生のような雰囲気でした。
第1回の公演を昨年3月にして以降は、その公演を見に来てくれた、歌やダンスを本格的にやっていた子たちが入ってくれました。今回の公演はそうして入ってくれたメンバーが中心になって作っています。
はじめは無名のサークルでしたが、公演をすることで「ハルニレ」が少しずつ大きくなっていくのを感じました。
ー公演に向けた意気込みを教えてください!
今回の公演は五感で楽しめる作品になっていると思います。
迫力あるダンスやワクワクするような歌。難しいことを考えずにありのままのショーを楽しんでほしいと思います!!
「THE PROM」の脚本・演出を務める池田瑛人さん(北海道大学・文学部2年)。
今回、150ページにも渡る脚本を書き上げました。脚本づくりにはミュージカルならではの困難があると話します。
ー脚本づくりの経験はあったのでしょうか?
池田:高校の時に趣味で映画を撮ったりはしていましたが、本格的にやったことはありませんでした。前回の公演も今回の「THE PROM」も0から物語を作っているわけではなく、英語の原作を翻訳しています。いずれは完全オリジナルの作品を作ってみたいなと思っています。
ー「THE PROM」の脚本ではどのような点に苦労しましたか?
翻訳するにあたって難しかったのはセリフよりも歌詞でした。英語の歌詞で一つの単語に一音が当てはめられていても、日本語に訳すと同じようにはいきません。歌のリズムにも合わせて言葉をあてはめなければならなかったので大変でした。これはミュージカルならではの苦労だったと思います。
ー池田さんは演出も担当されているとのことですが、今回の「THE PROM」ではどのような点を重視したのでしょうか?
「THE PROM」はコメディチックで、使われる楽曲も非常に楽しい作品なのが特徴ですが、扱っているテーマはセクシャルマイノリティについてです。演者には当事者の気持ちをしっかりと想像して大事に演じるよう伝えています。
また、「ミュージカルは総合芸術」とよく言われます。いろいろな要素が全部そろって作品になります。セリフではなくあえて歌うのは、歌じゃないと伝えられないものがあるからだと思います。今回の公演では、作品のメッセージと総合的なエンタメ性がしっかりと伝わればと思います。
お待たせしました。
主役エマの登場です。(ババン…!)
エマを演じるのは「ハルニレ」内では数少ないミュージカル経験者の島田結衣さん(北海道大学・法学部2年)。
「ハルニレ」内では数少ないミュージカル経験者の島田さん。今回の公演では主演のエマ役を務めます。
ーミュージカルはいつからやられていたのでしょうか?
島田:関東の地元でミュージカルをやっている団体に参加し、活動していました。中学生の時には演劇部に入っていたりと、いままでも継続してお芝居をすることに触れてきました。それで大学でも舞台やお芝居に関わることがしたいなと。
ハルニレの存在は入学後に知ったのですが、今年度入ってみてメンバー同士の仲の良さにびっくりしました。こういうサークルってもっと上下関係バチバチかと思っていたので(笑)
ーミュージカルの経験者は少ないとのことですが、どのようにして練習を進めているのでしょうか?
自分は経験者なので、いろいろと質問してもらえることが多いですね。
自分の持っている精一杯を返そうと思っています。人によってどのような言葉だったら受け取りやすいか違うはずなので、その人にあう表現の仕方で伝えられるよう、どうやったら一番伝わりやすいかということをいつも考えています。
全体としてはもっともっと濃密な練習をできるようにしたいですね。見ている人にパワーを与えられるエネルギッシュな団体になれればいいなと思います。
ー今回は主演です。どのような公演にしていきたいですか?
「THE PROM」はアンサンブルと呼ばれるメイン以外のキャストも輝ける作品だと思います。なので一人一人が輝くような舞台を作りたいです。
私自身は主演を演じさせていただくので、演じる「エマ」が伝えたい思いを観客のみなさんに十分に伝えられるようにこれからも練習していきたいです。
メンバーそれぞれの想いを乗せた「ハルニレ」第2回公演「THE PROM」。
3月11日(土)、北24条のサンプラザホールにて入場無料(要事前登録)でご覧いただけます。
日時:2023年3月11日(土)
昼の部:(開場)12:30・ 13:00~15:30開演
夜の部:(開場)17:30・ 18:00~20:30開演
場所:札幌サンプラザホール
札幌市北区北24条西5丁目
地下鉄南北線「北24条駅」から徒歩3分
入場料:無料
※公演をご覧になるためには予め事前登録が必要となります。詳しくは「ハルニレ」の各種SNSをご確認ください。
「ハルニレ」さんとの出会いは2年前に遡ります。JagaJagaで私(久保田)が中心となり企画したオンライン新歓に参加してくれていたのです。北大にミュージカルサークルなんてあったっけ?不思議に思い話を聞くとどうやらつい最近作った、とのこと。
オンライン新歓の時点ではまだメンバーはいませんでした。「一人でも大人数のサークルも同じ土台に乗れる」オンラインの強みを活かしていました。「JagaJagaさん、一人入ってくれました!一人目のメンバーです!!」企画後にそう話してくれた高橋さんの喜びは画面越しにも十分に伝わりました。
あれから2年。
第1回公演にこぎ着け、さらにメンバーを増やし盛り上がっていくさまをSNSで見ていました。そして今回第2回公演に向けて取材させていただくことになったのです。
「ハルニレ」さんの良さは練習の合間にこそ現れていました。誰からともなく練習の振り返りをし、常に誰かの歌声が響いています。とても楽しそうですが、それでいて真剣な表情の皆さん。ミュージカルを作り上げるという一つの共通した目標に向かって、それぞれがそれぞれのできることを出し合っている姿は取材をしていた私たちにも大きなエネルギーを与えてくれました。これからも見続けたい。推し続けたいサークルがまた一つ増えました。「ハルニレ」さん、ありがとうございました!!
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取材・執筆:久保田 健太(工学部3年)
写真:平 翔(理学部2年)・小室 光大(教育学部4年)
編集:小室 光大(教育学部4年)
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