子どもを育てる中で、母親はたくさんの想いを経験します。
喜び、楽しさ、愛おしさ。他では経験しがたいものですが、良い想いばかりではありません。怒り、焦り、不安など、陰性感情といわれるものも日々経験することになります。
さらに、子育て期間中に自分自身の子ども時代を思い起こし、消化しきれない娘としての想いに気づき、母としての自分の気持ちとの間に葛藤が生じることも少なくありません。
今日は公認心理師である筆者が、わが子と昔の自分を比べて苦しむ女性が少しでも楽になるような考え方をご紹介します。
小さい時、親が○○をしてくれなくて悲しかった。
自分がお母さんになったら、子どもには同じ想いをさせたくない。
そういう気持ちを胸に「きっと子どもは喜んでくれるはず」と、一生懸命に自分が母親に求めていたことを、母になった今、わが子のためにしてあげる人はたくさんいます。でも、わが子は思ったようには喜びません。感謝もしません。してもらうことが当たり前のような様子で、時には文句を言います。
とても悲しい気持ちになりますよね。
どんなに苦労しても手に入れられなかったものを簡単に手にしたわが子をうらやましく思い始め、時には憎さも感じてしまう。わが子に対して、そんな気持ちを持つ自分を責め、すごく落ち込む。
そういう訴えが実は結構多いのです。
内容は人それぞれ。母親の手作りのお菓子、週末の家族みんなのおでかけ、経済的なこと。
せっかく子どもが喜ぶと思って頑張ったけれど、喜んでもらえなかったというがっかり以上の気持ちが母親にわいてきてしまいます。
「そういう気持ちになるなんて自分がおかしいんじゃないか」と話される方が多いのですが、そうではありません。臨床場面では、子どもへの嫉妬心に苦しむ女性がとても多いです。
嫉妬心を抱く背景には、他のいろいろな辛い気持ちが隠れています。
あんなに「親と同じことはしないでおこう」と思っていたはずなのに、ふと気づけば同じことをしている。そんな自分に愕然とします。自分の思い描く母親像に近づけるよう努力するのに、思うようにいかず親と同じことをしているのではという嫌悪感。
ほどよい目標となる存在がいないままに母親となることへの不安感。
そして、子どもに嫉妬心を持っているなんて誰にも言えないという孤独感。
そうしたさまざまな辛い気持ちが、母親を追い詰め、こんなに自分は苦しんでいるのに何も知らずに幸せそうにしている子どもにさらなるイライラを感じるようになってしまいます。
たくさんの辛い思いを抱えながら子育てをしているあなたはとても頑張っています。
いつも母親として、子どものために何をしてあげたらいいか悩み、考えていることでしょう。
何をして、何をしないかを決める時に、考えてほしいことがあります。
それは相手がどんな反応をしてもがっかりしないかということです。
子育てに限ったことではないのですが、人に何かをしてあげたいと思うことは良いことですし、やってあげたいことはやりましょう。けれど、やる前に、相手の反応が自分の思ったような反応ではなかったときにがっかりしないか一度立ち止まって考えてみてください。
相手が思ったような反応をしなかったら、がっかりして、イライラしそうだなという時は、あまりがんばり過ぎないようにしましょう。親としてやらなくてはいけない最低限のことはありますが、つい母親は子どものためだとがんばり過ぎてしまうから……。思ったような反応が返ってこなくても自分がやってあげたかったらやったこと。やってあげられてよかったと思える程度にしておきましょう。
義務感で子育てをしている人は、皆さんが思うよりもたくさんいます。
母親だから子どもを愛して当たり前、子どものことがわかって当たり前と思いがちですが、そうではない人も世の中にはたくさんいます。当たり前と思われているからこそ、そういう人は苦しんでいてもなかなか訴えることができずにいます。
だからもし、この記事を読んでくださっている方が、子どもに嫉妬心を抱くことで自分を母親失格だと責めているのであれば、それはあなただけではないことを知っておいてください。そして、自分を責めるあなたは決して母親失格なわけではないということも。
急には無理でも、少しずつ過去の自分、今の自分、今のあなたの子どもは別のものだということを意識しましょう。そのうえで、今の自分がやってあげたいと思っていること、そして、今目の前の子どもがやってほしいと思っていることを落ち着いて考えてみましょう。過去の自分がやってほしかったことが、今の自分がやってあげたいこと、あなたの子どもがやってほしいこととは限りません。大事なことは今のあなたの気持ち、あなたの子どもの気持ちです。
過去の自分をないがしろにするのではありませんよ。過去の自分はこうして欲しかったのに、してもらえなかった気持ちはそのまま受け止めて、悲しかった、苦しかった、でもよくがんばってきてねといたわりましょう。
子育てで悩むのは、真剣に子どもと向き合っているからこそです。
がんばってきた過去の自分があっての今の自分です。でも今の自分の言動は、今の自分で決めていきましょう。こうあるべきにとらわれ過ぎず、子どもとどう過ごしたいかを考えてみてくださいね。
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文:竹原久美子(公認心理師/婦人科クリニック勤務)
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【ライター:竹原久美子 PROFILE】
中学時代、寄り添ってくれる人の大切さを感じ、心に寄り添う仕事につくことを決める。
「人生の始まる現場で学びたい」と産婦人科での実習を希望し、そのまま、産婦人科で女性の心に寄り添い続けてもうすぐ20年。
土地柄を肌で知っていることは心の理解にも役立つという想いで、地元札幌で臨床に携わり続けている。
【画像】CORA、hirost、Choreograph、Sunrising / PIXTA(ピクスタ)
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