2022.09.18
暮らす相次ぐクマの目撃や被害。実は、住民一人ひとりに「できること」があります。
HBCでは、クマの専門家や札幌市、大学生とともに「クマとまちづくり」を考えるプロジェクトを始めました。参加している大学生自身が、率直で、だからこそ新しい気づきをお伝えします。
(プロジェクトのこれまでの活動内容については、連載「クマさん、ここまでよ」でご覧いただけます)
北海学園大学3年のみことです。生まれも育ちも札幌の私は、クマの市街地出没のニュースを今まで何度も見てきましたが、どこか他人ごとに感じていました。
「行動するにも、何をしたらいいかわからないし…」と思う中、HBCから、この「クマとまちづくり」を考えるプロジェクトに誘っていただきました。道民として、クマを学べる機会を逃すべきではないと思い、何も知らない状態から活動しながら、知識を吸収しています。
プロジェクトが始まって、まずは札幌市南区真駒内の「南町みどり公園」での草刈りに参加しました。伸びた草がクマと人の視界を遮って、両者の生活圏の境目を曖昧にしてしまうことを実感したり、真駒内地域の住民の方々にクマに対する意識や意見を聞いて、住民ができる対策の限界を感じたりしてきました。
住民には何ができるのか?広げるためにはどうすればいいのか?
そのヒントを知る人に、会うチャンスがありました。
知床でクマ対策に関わる、村上晴花(むらかみ・はるか)さんです。
はじけるような笑顔が印象的で、学生の私にも壁を感じさせない、気さくな方でした。社会人に話を聞きに行くということで少し緊張気味で臨んだ私も、一緒にご飯を食べて少しお話しただけで、クマのことを考える仲間になれた気がしました。
お会いした場所は、札幌の森の中にある、住所非公開のアウトドアレストラン「mountainman(マウンテンマン)」です。
「mountainman」は、大人が本気で作った、まさに「秘密基地」という感じ。
周りに生えている木や日の光までもがインテリアとなって、開放的な空間となっています。たくましさとスタイリッシュさが共存した、唯一無二の雰囲気を持つレストランだと思います。
鉄のフライパンでふっくらと焼かれたハンバーグは、切ると肉汁が流れてきて、お肉の食感を残しながらもじゅわっとジューシー。目玉焼きが2つものっているので、いつもより少しだけ贅沢で幸せな気分になります。
お店の庭でとれた野菜のサラダや、お店で焼いたパンと発酵バターもいただいて大満足です。
食後にいただいた自家製のレモネードは、甘酸っぱさのバランスと爽やかな香りが最高で、気温が高かった取材当日の火照った体に染み渡りました。
なぜここに村上さんが来たかというと…
村上さんは知床でホテルを営む「北こぶしリゾート」の社員。「地域への恩返し」として始めた「クマ活」を担当しています。
「クマ活」は、クマが間違って人の生活圏に入ってきてしまわないように草刈りをしたり、人の食べ物に興味を持つことで駆除対象のクマになってしまわないようにゴミ拾いをしたりする活動です。
クマが生息していることは知床の魅力でもありますが、街に出没して人の食べ物の味を覚えるなどして、人への好奇心を持ってしまったクマは、私たちに危害を加える恐れがあるため、駆除せざるを得ません。
「クマ活」は、クマと人の生活を同時に守ることになるのだとか。
「mountainman」のメアラシ ケンイチさんが知床での「クマ活」に参加し、縁がつながったことで、初の知床以外での開催が実現しました。
「mountainman」ではクマが出たことはありませんが、これからも出ないように、事前に対策したいと手を挙げたのです。
まずは木々の中で輪になって、クマ講座の開始です。対策を実行するだけでなく、学ぶ・考える時間があるのが、「クマ活」の特徴です。
私のほかには、酪農学園大学や北海道大学でクマについて学んでいる学生や、「mountainman」のスタッフなどが参加しました。
村上さんは「最近見たクマのニュースは?」「知床を訪れたことはありますか?」と、まるでトーク番組のように質問を投げかけたり、クマとの距離を測るカードを配ってみんなで使ってみたり…と、参加型の楽しい講座で聞いている人たちを飽きさせません!
私はこの機会に、村上さんに聞いてみたい、クマについての疑問をたくさん書き出して臨みました。
「人とクマの生活圏はどのように区切るべきか?」という疑問に対しては、「人が山に入ったときと、日常、たとえばコンビニの前とでは、クマに出会うことへの許容度が違うと思う。まちの中で、クマを許容できる『クマ優先ゾーン』や『クマ優先時間』を、人が考えることが必要ではないか」などと回答していただきました。
そうして考えたクマと人の「ゾーン分け」を表すための手段が、草刈りやごみ拾いだといいます。
また、知床では、人前に現れたクマに対して餌を与えたり、写真を撮るために近づいて行ったりする人も多いという話もインターネットで目にしていました。この「人のクマ慣れ」についても、どうしたらいいのか質問してみました。
「餌やりや撮影は、一人がすると他の人もしてしまうし、至近距離のクマの写真をSNSにアップすると、近くでクマの撮影をする目的で知床を訪れる人が増える」と話す村上さん。
「それら自体が危険行為であることはもちろん、たとえそのときに何も起こらなかったとしても、クマが人に興味を持つきっかけとなって、後々ゴミを食べてしまったり人に危害を加えるようになったりすることに繋がる。そうなるとそのクマは駆除の対象になってしまう。クマを見かけても遠くから観察するだけで通り過ぎてほしい」と熱意のこもった様子で話してくれました。
講座のあとはクマについて考えるテーブルを囲んで、ワークショップも行いました。
クマに詳しい人、そうでない人が入り混じったグループになって、自由にクマのイメージを出し合います。その後、観光客や農家、漁師、カメラマンなど、設定された立場になりきって、もう一度イメージを出し合いました。
多種多様な世代や立場の方と話して、それぞれが持つクマのイメージを知ると面白い!
クマのイメージと聞かれて、私は、「子どもはかわいいけど、大人は大きくて筋肉質」という意見を出しました。一方、クマについて学んでいる酪農学園大学の学生からは、「個体ごとに行動のくせがある」という意見が出たり、「北海道と言えばクマ」という意見を受けて、「ゆるキャラやカントリーサインにもよく使われているよね」という意見が連鎖的に生まれたり…。
みんなのイメージを可視化して共有すると、どんな立場のどんな意見が対立するのか、どのようにクマへの意識を持ってもらうのが効果的か、など、対策のヒントが見えてきます。
日差しが落ち着いて涼しくなってきたころ、「mountainman」周辺の草刈りを開始。
「mountainman」は人が通る道がある程度整備されていて、それほど草が伸びていなかったため、ゆったり会話を楽しみながら行うことができました。
村上さんと話していて、印象に残ったのは、「クマ対策の気軽さ」です。
村上さんは知床で草刈りやゴミ拾いをするとき、イベントとしてかっちり準備することもあれば、「〇月〇日、○○時、道の駅集合!」とSNSで呼びかけることもしばしばあるそうで、その気軽な)呼びかけによって、若い人が多く集まってくるのだとか。
村上さんは、「草刈りには時間も人もコストもかかるし、土地の権利の確認が必要な場合もある。だからこういった機会を作らないと。活動に参加できないまちの人たちも、『クマ活』のように組織が行動して発信していくことで、意識してくれたりする」と話します。
さらに、「住民がすぐにできることといえば、ポイ捨てはもちろんせず、ゴミをきれいに、時間通りに出すことに気を付けたり、拾ったりすること。『仕事でクマ活には参加できないけど、職場や自分の家の周りだけはゴミを拾うようにしてるよ』という地元の人の声を聞いたときは嬉しかった。こういった活動によって人が育つことが重要」と、ひとつひとつ、大切そうに話していました。
クマについて「じぶんごと」に考えると、私たちに今すぐできる対策があることに気づきます。
家の周りのゴミ拾いといった、個人個人でできる小さなことを日常的に心がけて行っていくことは、誰にでもできます。
住民一人ひとりの意識が、クマと人の安全な生活に繋がります。
「怖い」「駆除するのはかわいそう」「出会ったらどうしたらいいかわからない」…。北海道に住んでいる人は、それぞれ少なからずクマへの意識を持っていると思います。
私は「クマ活」に参加したことで、クマが出没したときは、今後その個体がどうなってしまうのかというところまで考えて行動しようと思うようになりました。
まずクマと遭遇しないように人が入念に対策をし、出会ってしまってもクマを驚かせないようにとにかくできるだけ距離をとることが大切…。
そして個人の行動は、その規模より、「するか、しないか」が重要だと思います。
近所の公園だけでも、自分の家の周りだけでも、ゴミ拾いを心掛けるだけで、それが家族の意識、地域の意識になり、人間とクマの住み分けに繋がるはずです。
みなさんも、クマと私たちの生活を、もう少し踏み込んで考えてみませんか?
連載「クマさん、ここまでよ」
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「mountainman」
・住所非公開(ヒント:42°59'13.9"N 141°21'38.6"E)
・定休日:月曜、火曜(祝日の場合は振りかえ)
・営業時間:平日は午前11時~午後3時/午後5時~9時、土日祝日は午前8時半から午後3時/午後5時から午後9時
※夜は前日までの予約制
・インスタグラム:
mountainman_sapporo
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文:「クマとまちづくり」プロジェクトメンバー・みこと
編集:Sitakke編集部IKU
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