2022.09.16
暮らす相次ぐクマの出没や被害。どんどん身近な問題になってきていますが、私たち住民にできることはあるのでしょうか?
専門家や地域の人々に話を聞きながら、大学生が考えます。
連載「クマさん、ここまでよ」
はじめまして、北海学園大学のともきと申します。クマの専門家ではない、いち大学生で、専攻は政治です。
でも、クマ対策は身近にあります。私はときどき、札幌市の円山に登山に行きますが、その前には、必ず札幌市のホームページで、クマの出没情報を確認しています。
こうして「じぶんごと」に考えるようになったきっかけは、去年、札幌市東区でクマが目撃されたニュースを見たことでした。「まさかそんなところで!」と、雷に打たれたような感覚になり、クマをもっと知ってみたいと思うようになりました。
クマが住宅地まで来てしまう前に、自分たちにできることがあるのではないか…。そう考えていた頃、「クマとまちづくりプロジェクト」を知り、参加を希望しました。
プロジェクトの一環でお世話になったのは、札幌市南区真駒内南町7丁目の町内会のみなさんです。7月末、町内会で「南町みどり公園」周辺でクマ対策の草刈りを予定していると聞き、私たちも参加させてもらいました。
草刈りは、見晴らしをよくして、クマと人の生活圏の境界をはっきりさせることで、ばったり出会うリスクを減らすための対策だといいます。
当日は町内会の方が10人ほど、大学生や札幌市などプロジェクトのメンバーが7人参加しました。
この町内会が草刈りを始めたきっかけは、10年前に公園で遊んでいた小学生がクマを目撃して、町内で騒ぎになったことだそうです。草刈りに参加していた住民には、「この一件まではクマを身近に感じていなかった」とおっしゃっていた方もいました。
私も実際に公園に行ってみると、住宅が立ち並ぶすぐそばだったため、「まさかこんなところで!」という気持ちになりました。
一方で、公園の奥には草が高く茂っていて、さらに奥には川がありました。
プロジェクトに参加しているクマの専門家・酪農学園大学の佐藤喜和(さとう・よしかず)教授からは、クマは川沿いを歩いて移動することもあると教わりました。さらに住民からは、ここでシカを見ることもあると聞き、この川沿いが野生動物の通り道になりうることがわかりました。
クマは思っていたより身近にいる…。それが純粋な気づきでした。
草が生い茂ったままでは、クマが近くを歩いていてもわからないなと思い、草刈りの必要性を強く感じました。
実際に刈り始めると、草の量が圧倒されるほど多く、大変でしたが、コツをつかむと、楽しいと感じるようになりました。
町内会長からは、この公園は普段から子どもが利用していて、夏休みにはラジオ体操や花火大会もするため、安全な場所として維持したいという想いも聞きました。
公園はどこにでもあって、当たり前の場所だと思っていましたが、大切さを忘れてしまっていたなと気づかされました。安心安全な場所として保つことが、地域にとって重要なのだとわかりました。
草刈りをした後の見晴らしは、草刈りの前とは格段に変わっていて、先を見通すことができるようになっていました。クマの等身大パネルを使って実験してみると、最初は草にすっぽり隠れていたクマが丸見えに!効果を感じました。
この公園は、地下鉄の真駒内駅から2.5キロほど離れた場所にあります。真駒内駅近くにはマンションが並んでいましたが、そこから南に進んでいって、住宅地が途切れ、警察学校などを越えた先の一区画に、一軒家が集まっているエリアが「南町7丁目」でした。
草刈りに参加していた住民の方々に、「まちのいいところ」を聞いてみました。突然の質問にもかかわらず、すぐに答えてくれました。
「ほかの住宅地との距離があるため、南町7丁目は住民の仲が良い」
「子ども同士の仲も良く、町内の子どもたちが集団で学校へと通学している様子をよく見る」
「自然に囲まれていて、閑静な住宅地で住みやすい地域です」
それぞれ笑顔で話してくださったのが、印象に残りました。
私も今回の草刈りを通して、みどり豊かな落ち着いた雰囲気や、住民の方が穏やかに仲良く会話をされている様子を目にしました。
地域の雰囲気は、クマ対策を考える上でも大切だと感じました。住民同士の声の掛け合いがある地域では、情報の共有をすることができ、いざとなったときに住民同士で助け合うことができるからです。
今回も、子どものクマの目撃をきっかけに、町内会長が草刈りを企画し、住民の方々が集まりました。こうして日ごろから話し合って、協力をできる関係が、「クマが入りづらいまちづくり」につながるのだと思います。
一方で、私は草刈りの課題も感じました。
町内会長さんは、「草刈りは危険も伴うので、十分に注意して行っている」とおっしゃっていました。私も実際に草刈りをすることで、簡単に刈れない、かたい草が多いことに気づき、大変さを実感しました。さらに、クマや蜂などの虫、道具の取り扱いにも注意する必要があります。
鎌やハサミは札幌市から借りましたが、電動草刈り機は、もともと自宅用に持っている住民方の持ち寄りで、住民に負担がありました。ただ、機械だと圧倒的に時間を短縮できるので、住民の労力を減らす上では効果的な手段です。
草刈りが持続可能なものであるためには、住民の負担を減らしていく取り組みが重要になってきます。鎌やハサミでも簡単に刈れる範囲は住民で進めつつ、とてもかたい草が茂っているような場所では、業者の力を借りることも必要かもしれません。
ただ、行政だけでクマ対策をするよりは、住民も参加したほうがいいとも感じています。今回、住民の方とコミュニケーションをとる中で、私の目では見えないようなことをその地域に住む町内の方はたくさん見えていて、知っていました。
たとえば、この公園は以前、一面が芝生で、子どもが虫にさされることがあったので、遊具の下を砂地に整備してもらったそうです。そうした“地域の歴史”や、“どんな植物が自生し、どんな虫がいるか”、“住民にとってのその場所の意味”など、長く住んでいるからこその知恵を教えてもらいました。
住人は、地域の専門家なのではないでしょうか。
住民が主体となることで、その地域に最も効果的なクマ対策と理想のまちづくりを実現することができるのではないかと思いました。
今回の草刈りを通じて、クマは思っていたより身近にいるのだなと思った一方で、私たちにもできることはあるという発見もありました。
今後も住民目線のクマ対策を考えて、みなさんに身近に感じてもらえるように活動を行っていきたいと思います。地域のクマ対策の実情をしっかりと自分の目で見つつ、自分たちのできる活動を模索して、貢献してきたいと考えています。
みなさま!どうぞ温かい声援を!!
連載「クマさん、ここまでよ」
文:「クマとまちづくり」プロジェクトメンバー・ともき
編集:Sitakke編集部IKU
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