2022.09.07
暮らす酪農のマチ、北海道・標茶町。
緑の絨毯を進んだ先で、目にしたのは…
変わり果てた姿の乳牛でした。
背中には、引っ掻かれたような傷。腹は裂かれ、内臓が食べられていました。
近くには、大きなクマの足跡のほか、電気柵を避けるために掘ったとみられる穴も見つかっています。
被害にあった酪農家は、「放牧していた牛を追い戻しに行った時に1頭だけ倒れていて、おかしいなと思って近くまで行ったら、あんな感じでやられていた。このままだと人にも被害が出てくるんじゃないかという気がする」と話します。
酪農家独自の対策、そして専門調査に基づいた「捕獲のチャンス」について、取材しました。
地域住民を恐怖に陥れているのが、推定、体長およそ2メートル、体重300キロほどの雄グマ「OSO18(おそ・じゅうはち)」。
2019年7月以降、道東の標茶町と厚岸町で60頭以上の乳牛を襲っています。
最初に被害が報告された標茶町下オソツベツの「オソ」と、前足の幅が18センチあったことから名づけられました。
「OSO18と人間との距離が近づいてきている」
そう、警鐘を鳴らすのは、地元のハンター・北海道猟友会標茶支部の後藤勲支部長です。
「今までは遠く離れていた牧野に何百頭も放していて、そういうところで襲っていたけど、結果的に農家の人は牛を放すことができなくなって自分の家の近くに置いている。牛舎のすぐそばの柵の中にいた牛が引きずられていって殺された経緯がある。だんだん人の近くに出てきている」
町などは、箱わなを仕掛けて捕獲を試みてきましたが、罠にかかるのは若いクマばかりです。
過去3年間で監視カメラに姿が映ったのは、わずか2回だけ。それもハンターが銃を使えない夜の時間帯です。
さらにOSO18は、ヒグマ特有の、獲物に対する執着心を見せないと言います。
後藤支部長は、「自分の餌だからと言って、普通はそこから逃げないで、とられたら困るからそこから逃げないでいるけど、(OSO18)は関係なしに食べては逃げていなくなってしまう。我々はここが餌場だから寄って来るだろうと待ち構える。しかし寄って来ない。それだけ利口だということ」と話します。
捕獲に向けた有効な手立てが見つからない中、独自に対策を講じる酪農家も…。
厚岸町の小野寺孝一(おのでら・こういち)さん。
今年5月、国の補助金を活用して、半月かけて放牧地の周囲1.7キロに防護柵を設置。
外側には、電気柵も取り付け、クマが隠れにくいように草を刈り、3メートルほどの緩衝帯も設けました。
しかし小野寺さんは、「ただこれは下草を刈らなければいけないので管理が大変なんです」と打ち明けます。
さらに…
いまでは、クマよけのロケット花火が日課になっています。
小野寺さんは、「精神的な不安が大きい。またやられるんじゃないかと。ただある程度の対策をやったので、これでやられたら仕方ない。諦めになっちゃうよね」と話します。
OSO18と人間の知恵比べが始まって、はや3年…。新たな調査で、その正体が少しずつわかってきました。
無人カメラの前を悠々と歩く1頭のクマ。
去年、道東の標津町の森で捉えた、OSO18とは別のクマです。
撮影したのは、クマの生態を調査している南知床・ヒグマ情報センター。
道の依頼を受け、冬眠明けで足跡が追跡しやすい2月から、OSO18の調査に乗り出しました。
体毛やフン、足跡などから少しずつ、謎に包まれていた正体が見えてきました。
南知床・ヒグマ情報センターの藤本靖理事長は、「今年の実際の被害現場をベースに、クマが移動したであろう部分が何となく見えてきた。その辺りを中心に見ているとオソを捕まえるチャンスはある」と話します。
調査の結果、移動ルートや、餌を探す時の拠点になる場所がわかってきました。
ただ、忍者グマとも呼ばれるOSO18の捕獲には、強い警戒心を解く必要があります。
藤本理事長は、「今までの対応の仕方が上手くいっていなくて、そこら中に人間の臭いを置いてきてクマに警戒を与えるようにしてしまった。今年はそれをなくして、静かにしたところ、自分の餌だと思って死んだ牛を違うところに引っ張って行ったりしていますから、全然普通のクマです。タイミングさえ合えば捕獲のチャンスはあります」と話します。
また、OSO18は夜間だけではなく日中も行動しているものの、人を避けているので、出会い頭などは例外として、積極的に人を襲う可能性は低いとも話していました。
酪農のマチを恐怖に陥れている巨大グマ「OSO18」。住民が平穏を取り戻せる日は、近いかもしれません。
連載「クマさん、ここまでよ」
文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部IKU
※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2022年8月29日)の情報に基づきます。
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