札幌にお住まいの杉本梢さん。
生まれつき視覚に障がいがある、いわゆる弱視の女性です。いま、杉本さんは、自分の障がいについて広く発信し、障がいへの理解を深めてもらおうと活動しています。どんな取り組みをしているのか、どんな想いを抱いているのか、お話を聞きました。
杉本さんの視力は0.02。 特注のコンタクトで矯正をしても、0.09までしか見えるようになりません。視界はぼやけ、真ん中の視野は欠けています。たとえば、こちらの焼肉セット。
杉本さんの視界では、このように見えるといいます。
そんな杉本さんが歩くときに困るというのが、電柱。
「電柱というのは、地面と一体化してしまっているので、なかなか、はっきり見えないんですね。なのでいつも、ここら辺にあるだろうなと歩いている」
うっかり電柱にぶつかってしまい、まぶたの上がパンパンにはれてしまったこともあるそうです。日常生活では、弱視ゆえのさまざまな苦労もありますが、工夫を凝らしてハンデを乗り越えてきたという杉本さん。
「私の目の見え方が、近づけば近づくほど見えやすくなる構造なので、メイクは鏡に近づけるだけ近づけて進めていきます」
また、足の爪を切るときには、こんな驚きの姿勢に。
小さいころから体が柔らかかったという杉本さん。
試しにこの前屈の姿勢で爪を切ってみたらうまくいったといい、今でも毎日ストレッチを続けて体の柔らかさを維持しているそう。
また、包丁もなんなく使うことができます。
ただ、杉本さんの視界はこのようにぼやけた状態。
「正直言ってあんまり見えていません。感覚で切っています。よく見てください。大きさは全然保証できないです」と明るく笑います。
生後8か月で視覚障がいと診断された杉本さん。しかし、視覚障がいがあることは、7歳になるまで、自覚していませんでした。
「自分のピンぼけ状態が、周りの人も同じ見え方だと思っていた」と振り返ります。
今は障がいについてオープンに話しますが、高校に入学した頃は、周囲にどう話していいか分からなかったといいます。
「私の見え方を知っている人もいないし、自分がどう助けを求めていいかわからなくて、どんどん苦しくなっていって、1か月くらいはずっと辞めたいと思っていた」
しかし、自分の障がいを詳しく伝えることで協力してくれる人が増え、伝えることの大切さを実感したといいます。
そんな経験もあり、今、杉本さんが取り組んでいるのが、障がい理解を深めるための活動です。視覚支援学校の教員を11年間務めた杉本さん。2018年には、札幌で障がい理解の啓発会社を設立しました。
障がいについて多くの人に理解してもらおうと、学校や企業で講演を行ったり、障がいを体験したりするイベントを開催しています。
さらに、YouTubeや様々なSNSでも、私たちが知らない「弱視の世界」を、ユーモアを交えつつ明るく発信しています。
この日、札幌・ススキノのとあるバーを訪れた杉本さん。 店内で、TikTokの生配信を行いました。
この生配信も、障がい理解のための活動のひとつ。
視聴者から寄せられるメッセージの文字を読むことができない杉本さんに代わって、店内に居合わせた客が読み上げる、という取り組みなのです。
居合わせた男性客は 「こういうことが大変なんだなっていうのが、非常に共感が持てる。がんばっていると思う」と話していました。
障がい当事者として、自分の日常生活や思いを発信することで、理解を広めたいと願う杉本さん。
しかし、視覚障がいがあることを、ことさらに特別なこととしてとらえているわけではなく、「障がいは私の一部分でしかありません」と語ります。
「私はお酒が好きだったり、朝はパンより米派だったりする。そういった自分という人間を構築している一つとして、弱視であるというとらえ方で生きています」
そして、視覚障がいにかかわらず、様々な立場、境遇を抱えた、誰もが快適に暮らしやすい社会を目指したいと語ります。
「私は障がいを持って生まれたので、そういった切り口で発信しているけど、難病とかアレルギーとか性別の事とか高齢者だとか、色んな事情を抱えている人がいる」
「それぞれの事情を受け止められるような、優しい社会になって欲しいなと。私にやれることを一つ一つやっていきたい」
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※掲載の内容は番組放送時(2022年7月28日)の情報に基づきます。
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