みなさんはスーパーや市場、飲食店で提供されている魚が新鮮かどうか、気になりませんか?
できればどんな料理にするにしたって鮮度が良いものを選びたいですし、「刺し身で食べて大丈夫?」と不安になること、ありますよね。
「魚介類の鮮度が、果物の糖度のように数字で見えたら……」
そんな願いを実現する技術を北海道大学大学院工学研究院の坪内直人准教授が開発しました!大きな可能性を秘めたシステムをご紹介します。
坪内准教授が開発した「鮮度見える化システム『MIRASAL』」は、魚介類の鮮度や旨味成分量をリアルタイムで判定し、スマートフォンやタブレットなどの携帯端末に表示・確認できるシステムです。
どのような技術で判定を可能にしたのでしょうか。
実は鮮度は、魚介類が致死後に増加させる特定成分の量から算出した「K値」という指標で判定できるのですが、従来の技術だとK値の測定に大型機械が必要で、しかも数時間もかかることから実用性に欠けていました。
その課題を克服するために坪内准教授が用いた手法はシミュレーションです。先行研究のデータから導き出した独自の計算式を応用し、魚介類の種類や大きさ、漁獲日時、貯蔵温度などの情報を登録するとリアルタイムの鮮度(K値)や食べ頃が自動的に算出されるシステムを開発しました。
まだ細部には課題が残りますが、将来的にこのシステムが実用化されれば、多くのメリットが期待できます。
例えば私たち消費者は、スーパーなどで活きの良い魚介類を購入できるようになり、飲食店ではいっそう鮮度の高い魚介類を仕入れて美味しい刺身を提供できるようになり、ネットで注文した魚介類でさえどのくらいの鮮度で自宅に届くかわかるように。
さらにこのシステムが自宅の冷蔵庫にも搭載されれば、かなり便利ですね。鮮度に応じて「刺身用」「加熱用」「食用には不適なので廃棄」を示してもらえて重宝しそうです。
一方の漁師さんや漁獲業者さんには、いつまでに、どのような方法で市場に届ければ良いか判断でき、輸送を効率化できるようになるというメリットも。
品質の保証により、ブランド力を構築し、所得向上・水産業の成長産業化(輸出拡大)への貢献も期待できます。
近年発展する保存技術と掛け合わせ、安心を担保できる商品として海外輸出することも可能になるかもしれません。
また、この技術は、北海道大学が近年、力を入れているロバスト(環境や気候の変化など外乱の影響による変化を防ぐ「内的な強靭性」)、具体的には農林水産業が工学などの技術との連携により、気候変動等の環境変化に適応しながら、持続可能な食料生産を行うことにも貢献すると考えられています。ロバストにより、安全・安心を科学的に保証できればこれまでよりもフードロスも減るでしょうし、ひいては漁獲量を管理することで乱獲の防止にもつながりそうです。
坪内准教授は「いろんな可能性が秘められているので、このシステムを導入する企業ごとに上手に活用してほしい」と期待を語っています。
取材をした2021年11月現在、判定できるのは、カツオやサンマ、スルメイカ、ホタテなど15種類の魚介類。今後、魚介類から枠を広げ、牛肉や豚肉・鶏肉も対象にしていく計画です。
このシステム、実用化に向けて、既に動き始めているそうで、坪内准教授によれば、複数の大企業が興味を持ち、連携の打診が来ているとのこと。そう遠くない未来には当たり前になっているかも?だれでも鮮度が”見らさる”日を楽しみですねー!
北海道大学では、「食」を重要な研究ミッションに掲げています。特に力を入れているのが、環境や気候の変化、資源の枯渇などの変化が生じても、食料生産と分配を継続できる社会を築くことです。
そのミッションの実現の中心となっているのは、2018年に立ち上げられた「ロバスト農林水産工学国際連携研究教育拠点」。農林水産業に生産力・収益力の向上を図る生産工学の概念を取り入れることで、食のバリューチェーンの強靭化を目指しています。
坪内准教授の研究のほかにも、農業・林業・酪農業に北海道を支える産業の問題解決や技術革新につながる研究プロジェクトが多く進められていますので、今後の活躍にぜひご注目ください。
HBCテレビで放送中の「SDGsシーズ~未来を拓く研究」では、坪内准教授の放送も視聴できます。ぜひご覧ください。
※掲載内容は取材時点(2021年11月4日)の情報に基づきます。
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