2021.11.27

育む

「お母さんだってひとりの人間」教科書のない子育てに迷う私を救ったのは、息子の『らしさのものさし』の話【親の心、子知らず。子の心、親知らず#5】

「なぜ、ママに話してくれたの?」
娘として育ててきた子から「自分は男だと思う」とカミングアウトされた高橋愛紀さん。

その子・愛美さんは、「弟が知的障がい者じゃなかったら、私は一生ママにこのことを話すことはなかったと思う。ママは弟のことを個性と受け入れ、子どもたちのためのボランティア活動をたくさんしてきた元気なママだったから…僕がカミングアウトできたのは弟のおかげ。弟に感謝しているんだ」と話しました。

必ず理解してくれると信じて声を上げてくれた我が子なのに、カミングアウトの瞬間から「娘」が消えていくような…。

トランスジェンダーの息子と、その母親が、交代で心の中を語る連載「親の心、子知らず。子の心、親知らず」。

第5回の今回は、母親の愛紀さんが、カミングアウトに困惑した当初から、自ら支援団体を立ち上げるようになるまでを振り返ります。

過去記事一覧:親の心、子知らず。子の心、親知らず

全てを受け入れてあげようとすればするほど、息子との関係が空回りし始めたのを覚えている。どこか奥歯に何かが挟まったような会話が増え、それぞれの思いが一人歩きする日々が続いていった。

カミングアウトは消してゴールではない。私たち親子にとってはスタートだった。

人はみんな、さまざまな運命を背負って生まれてくる。命が誕生するということは、産んだ親と生まれた子が存在するということ。人は生まれてから死ぬまで、誰とも関わらないで生きていくことはできず、たくさんの人と出会い大人になっていくのだろう。

一般的に、産み育てた母は、子どもに何かあると自分のせいにしてしまうことが少なくない。妊娠中の何かが悪かったのかもしれない?だとか…食生活が悪かったのか?だとか…突然の事故に巻き込まれてしまったとしても、自分を責めてしまうだろう。

私もそのひとりだった。長男のトランスジェンダー、次男の軽度知的障がい、三男の「反抗期」でさえ、自分のせいだと思ってならなかった。

愛紀さんと夫と3人の息子

命を授かってから、10か月も一心同体、あんなにつらい陣痛に耐えて命がけで産み落とした我が子。だからなのか、どうにもならないことが起きることは誰にだってあるのに、自分のせいだと自分を責める親はとても多い。誰かのせいや何かの環境のせいにできたら楽になれるが、誰かのせいにできる親なんてほとんどいないのではないだろうか。

たとえ何かのせいにしたところで、現実は何も変わらない。変わってあげたくても変わってあげられない…。

そして、どんなことが起こっても我が子は我が子、可愛い我が子に変わりはないのだ。

母親の多くは、お腹に命が宿ったその日から子育てが始まる。宿ったその日から、何が正解かわからない子育てを手探りで頑張ってみるのだ。

だけど同じ親で同じお腹から産まれても、同じ環境で育ったとしても、同じ人間には育つわけはない。親の理想通りになんか子どもは育ってくれないのがほとんどだ。自分自身がそうだったから、知ってはいたけれど…笑

何があっても私の子として存在していることはたしかで、どんなことがあっても愛する我が子であることには変わりはないのだけれど、お母さんだってひとりの人間なわけで…。

私ではない、もっといいママを選んで生まれてきたら違った人生だったかもしれないのに…どうして私なんかを選んでこの子は生まれてきたのだろう…。どうしようもないことすら考えたりして、途方に暮れるときもある。

でも、次男が小学校2年生のとき、担任の先生が私に教えてくれた。
「息子さんは時間がかかっても、最後まで係の仕事をするんです。みんなサボったり、飽きちゃったりするのに…責任感がすごいですよ!できないことに目が行きがちですが、できることに目を向けて、できることをたくさん見つけて行きましょう!一緒に!」

この一言は私を大きく変えた。それまでは、「なんでこの子はできないの?できるようにしてあげなきゃ…」焦ってばかりの子育てだった。

それからは、次男のすることになるべく手は出さず、時間がかかっても最後までやり遂げる姿を見守った。「時間がかかっても、最後までやろうね」というのが、私と次男との約束になった。

次男の長所は"責任感"。今は清掃員の仕事につき3年が経ったが、継続して日々一生懸命働いている。

そうして次男の障がいを「個性」と思えても、長男のカミングアウトのときも、やっぱり戸惑った。子育てに教科書なんてないから、迷うし悩みは尽きない。でも当たり前のことを当たり前に知ることで救われることがあるということを私は知った。

たしかに、我が家に生まれてきた上の子2人はマイノリティ(少数派)にあてはまるかもしれない。なぜか、日本という国は一定の決まった枠からはみ出してしまった者は、普通じゃないとはじかれてしまうことが少なくないのでは?

長男・愛美さん。教員を目指して大学院で勉強中

長男は言う。「僕たちはしばしば、『男らしさ』や『女の子らしさ』といった『らしさのものさし』で人を図る場面に遭遇する。そんなときに『その前にひとりの人間なんだけれど?』『らしさを押し付けないで…』と思ってきた」と…。

私は「SOGI(※1)」という概念にたどり着き、理解できているようで、できていなかった当たり前を思い出した。

「多数派が少数派を助けてあげましょう」が主流である世の中ですが、そうでしょうか?

私はこれまで、障がいを持つ子ども達からたくましく生きるパワーをもらい、障がいを持つお子さまのお母さまたちから、人生を前向きに生きるヒントをたくさんいただいた。

私の人生はマイノリティの方々から支えられた人生だった。みなさんもマイノリティの方々から、助けられることはたくさんあるはず。マジョリティ(多数派)、マイノリティ関係なく、人はみんな支え合って生きている。

障がい者の方も1000人いたら、1000通り、LGBT’Sも1000人いたら、1000通り、人はみな1000人いたら、1000通り。親も子もひとりの人間で異なった人なんだということ…だから、「親の心、子知らず。子の心、親知らず」…なんです。

この連載を通して一番に伝えたかったことは、知らないと知っているでは大きな違いがあるということ…。人生とは、知ることから始まることがほとんどではないだろうか…。

あなたは自分自身のことを知っていますか?そして、あなたが大切に思う人のことを知っていますか?

知ることから始めて見てください。人はみんな違って当たり前だということを…。

***

編集後記

「親の心、子知らず。子の心、親知らず」を読んでくださり感謝申し上げます。

凍りついた親子の氷がゆっくりゆっくりと解け始めた頃はいつだったか…振り返ると、忘れはしない“LGBT成人式”(※2)での、息子の成人の辞がきっかけだったように思います。

「僕にはトランスジェンダーの先生として、学校の教壇に立つという夢があります。先生自身がカミングアウトし、教育現場に立つことが社会を変えていくためのひとつの手段であり、ジェンダーセクシュアリティの問題で悩む多くの子ども達を勇気づける」

息子が「トランスジェンダーの先生」として社会を変えたいのなら、私は「トランスジェンダーの子を持つ親」としてできることがあるとさえ気づかされた、決意表明でした。

その後、札幌市のLGBTホットラインのカード(電話相談の窓口)とLGBT関連のパンフレットを、札幌市内の教育現場に配り歩いたのが私の活動の始まりです。

親子で悩みを吐きだせる場所があったなら、学校と連携がある団体があったなら、たくさんの情報を得られる場所やLGBTについての総合案内所のような窓口があったなら…。

LGBTの活動家の方々と手を結びあって、2019年、性的マイノリティで悩む当事者、または保護者を支援する支援団体として、“SOGI-Mamii’s”を立ち上げました。私たち親子だけでなく、いろいろな方のご縁があって実現した今の活動。「一期一会」を合い言葉にしています。

団体の協力者:にじいろスマイル田中純代表(左)、元滝川市議会議員で現江別SOGIの会会長の舘内孝夫さん(右)

月1の情報交換会を行っていましたが、コロナ禍で自粛続きになり、「集まらずにも当事者を孤立させない方法を…」と考えて、今年8月からはラジオ番組「高橋愛紀が贈る~SOGI-Mamii’s ハピネス♡Umbrella☂」もスタートしました。第1・第3・第5火曜日の14時からの放送で、SOGI-Mamii’sメンバーや行政書士が相談に乗ったり、当事者や弁護士などをゲストに迎えて、それぞれの立場からの情報提供をしたりしています。ぜひラジオも聞いてみてくださいね。

左から丸山浩樹放送局長、江別SOGIの会・舘内孝夫会長、愛紀さん

髪の色も目の色も性別も、障がいがあるないも、職業も宗教も、みんな違って当たり前、みんな違ってみんな特別な存在なんだと…。全ての人々が平等に安心した生活が送れますように…誰もが先の未来を描くことができますように…カミングアウトなど必要としない世の中になりますように…差別や偏見などの言葉もなくなりますように…。

この連載を通じて出会えた皆さまとのご縁に感謝します。
一期一会♥

レインボープライド2019(左から愛紀さん、道議会渕上綾子議員、市議会たけのうち有美議員、愛美さん)

※1・SOGI(ソジ)
Sexual Orientation & Gender Identity(性的指向と性自認)の略称。LGBTQ+の当事者かどうかではなく、誰もがもつアイデンティティであり、SOGI を考えることはすべての人の「生きやすさ」につながる。

※2・LGBT成人式
「もっと好きになれる自分」への第一歩を踏み出す日。成人式を既に迎えた人も、これから成人式という人も「ありのままの自分」を誇り、自分のしたい姿で祝福されることで、「成りたい人」への一歩を踏み出してほしいとの想いから、2011年より毎年、全国各地で開催されている。

文・用語解説:高橋愛紀(たかはし・あき)
編集後記協力:高橋愛美(たかはし・まさはる)

編集:Sitakke編集部IKU

過去記事一覧:親の心、子知らず。子の心、親知らず
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Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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