2024.10.13
深める12月3日。妊娠34週目の健診には、仕事を休むことができたパートナーのちかさんも付き添いました。
新開医師はいつものように穏やかな口調で、きみちゃんとちかさんの表情を交互に確かめながら、ゆっくりと話していきました。
「大学病院全体の方針としてはGID(性同一性障害)の人には個室に入ってもらうことをお願いして…。ただ、個室料金は本人の負担になってしまいます」
産婦人科で個室を利用すると、1日に6000円ほどかかるといいます。
実はこのとき、赤ちゃんの「逆子」の状態が続いていることもわかっていました。逆子とは、赤ちゃんの頭が下を向いていない状態のこと。出産時までこの状態が続くと、難産になるリスクが高いとされています。
入院はいつからいつまでか、帝王切開にするのか…お産はなかなか、予定通りには進まないもの。個室料金も、何日分に膨らんでいくかわかりません。
「意見とか確認したいことがあれば、後から更新もできるから、おっしゃってくださいね」。新開医師は、病院の方針を伝えるだけでなく、2人の本音を聞こうと気遣っているように見えました。
「どこまでが許容ができて、どこからはやめて欲しいのか」…。口数が少ないきみちゃんの本音を聞き出そうと、試行錯誤を重ねてきた新開医師。
初めてトランスジェンダーの患者を担当する中で、妊婦との信頼関係を作り上げる大切さを、改めて実感したといいます。インタビューでもいつも、時折目をつむり、間を置きながら、熟考し答えていました。
個室について、きみちゃんとちかさんは、「仕方ない」と言いながらも、「GID(性同一性障害)だから別室っていう、そこはなんともいえない」と少し煮え切らない思いもこぼしていました。
こころの性とからだの性が違うために、こころもからだも女性に生まれた人よりも、追加でかかる金銭的な負担。「仕方がない」とみるのか、「不平等」とみるのか。「不平等」ならば、どうしたらいいのか。
近年、性別は男性と女性だけで分けられないことは、広く知られるようになってきたと思います。しかし、トイレや更衣室など、当たり前のように2つに分けられてきた公共施設は、大きな課題となっています。
何が必要な「区別」で、どこからが 「差別」になるのか…。当事者の中でも、ひとりひとり考え方は違います。わたしは様々な当事者の方に取材して考え続けていますが、「こうするべきではないか」という答えはまだ、出せずにいます。
多くの人が出入りをする病院で、「誰もが安心できる環境」を整えるためにはどうしたらいいのか。病院もまた、時代の過渡期に立たされているのだと感じました。