2023.04.24

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【人間に似てる?】”怪獣”マニアの研究者が、現地へ飛んで探した怪獣とは【どさん好奇心vol.1】

北海道で暮らすあなたの日常に、もっと知的好奇心を!
ちょっとマニアックだけど、なんかワクワクしてくる。なるほど深くて面白い。新連載「どさん好奇心(どさん・こうきしん)」では、日常に潜むそんなアレコレの探求に励む、北海道在住の教授たちにお話をお聞きします。

第1回目は、北海学園大学で、中国の怪獣文化を研究している中根研一教授のご登場です。

<中根 研一教授・北海学園大学 法学部法律学科教授>北海道大学大学院文学研究科博士後期課程歴史地域文化学修了。現在の研究テーマは中国民間文学の多角的研究、怪獣文化、映像文化。著書に『中国「野人」騒動記』(大修館あじあブックス、2002年)、『映画は中国を目指す—中国映像ビジネス最前線—』(洋泉社、2015年)。共著に『UMA事件クロニクル』(ASIOS著、彩図社、2018年)、『中国文学をつまみ食い 『詩経』から『三体』まで』(武田雅哉・加部勇一郎・田村容子編著、ミネルヴァ書房、2022年・共著)など。趣味はプロレス観戦。

なぜ、研究テーマに"怪獣"を?

–さっそくですが、そもそも“怪獣”とは何ですか?

”怪獣”ときいて、何をイメージしますか?

–ゴジラとか、ウルトラマンに登場する怪獣などが思い浮かびます。

いいですね! それらはまさに私が怪獣を好きになったきっかけになったものです。子どもの頃、テレビをつければいろんな怪獣が出ていて、夢中になりました。(子どもの頃はゴジラのファンクラブにも入っていました!)

–あ!確かに先生の研究室にも、ゴジラやウルトラマンがいますね。

散らかっていて、ちょっと恥ずかしいですが(笑)
加えて、「UMA(ユーマ)」と呼ばれるような存在にも子どもの頃から心惹かれていました。ビッグフットやネッシー、雪男、ツチノコといった、目撃証言などはありながらも実在が確認されていない「未確認動物」ですね。テレビ番組で特集が組まれたら必ず見ましたし、その分野の記事で埋め尽くされた雑誌を愛読していました。特撮映画の怪獣のような存在が現実にもいたらいいな、と思っていたんです。

現在私は、そうした一般的にはあり得ないと思われる動物全般をゆるやかな括りで「怪獣」と呼んでいます。

–先生が中国の怪獣に興味を持ったのは?

子どもの頃、1980年代に、中国に「水怪(すいかい)」や「野人(やじん)」という怪獣がいるらしいという話を本で読んだのがきっかけです。大学生になってから気になっていろいろ調べたら、目撃事件の発生に歴史的・社会的な背景が見えてきたり、文学作品にお話のルーツがあるものや、その後、映画に描かれるものもいたりして、思った以上に奥が深くてハマってしまいました。昔は怪獣そのものの真偽に関心がありましたが、やがて「怪獣について物語る人々」の方へ興味がシフトしていき、気がついたら自分の研究テーマの一つとなってしまいました。

中国の「怪獣」という言葉の起源は紀元前で、今も愛されている?

–ずいぶん前から怪獣がいたんですね。

そうですね。「怪獣」という言葉自体は、紀元前の戦国時代から漢代にかけて編まれた『山海経(せんがいきょう)』という書物に既に記されています。各地の地理・動植物・鉱物などに関する記載の中に、「怪獣」と呼ばれる奇想天外な姿をした生き物や、それにまつわる伝説・神話が断片的ながら多く残されています。
オリジナルの絵は失われましたが、明や清の時代に描かれた絵入りのものが現存していて『山海経』は今でも中国における怪獣のバイブル的な存在です。文学作品や映像作品に登場する怪獣の定番のネタ元ですし、現代でも奇妙な動物の目撃談が出るとたいがい「『山海経』に書かれていた〇〇では?!」と言われます。

『山海経』に登場する怪獣の例(絵はいずれも明・清代に描かれたもの。以下同じ)

中国は今や興行収入は世界一の映画大国ですが、その中でもSFや怪獣映画は人気ジャンルの一つです。近年は自国産の怪獣モノの製作も盛んで、劇場やネット上での公開が相次いでいます。日本で公開されているものもありますよ。

■2020年日本公開『モンスター・ハント 王の末裔』(2018)

『モンスター・ハント 王の末裔』に登場する怪獣「胡巴(フーパ)」のぬいぐるみ

■2022年日本公開『スノー・モンスター』(2019)

–日本で知られている怪獣もいますか?

四神と呼ばれる神獣たち、青龍、朱雀、白虎、玄武は縁起のいい怪獣で、日本では風水グッズが作られたりしていますから、若い人にもよく知られていると思います。漫画の題材にも使われていますよね。

『山海経』にその名が見える「九尾の狐」も、日本でメジャーと言っていいでしょう。日本では古くに『玉藻前(たまものまえ)』の伝説と結びつき、馴染みのあるキャラクターとなりましたし、最近では、ポケモンのキュウコンや妖怪ウォッチのキュウビが、この九尾の狐をモデルにしています。漫画の『NARUTO -ナルト-』にも登場していますね。
その他にも、江戸時代の浮世絵などに、しばしば『山海経』由来の怪獣怪人たちが描かれていますね。

中根教授の“推し”怪獣Best3を聞いてみた!

–数多い中国の怪獣の中で、中根教授の推しBest3を教えてください!

ん~~~難しい質問ですが…(笑)この3頭ですかね!

–リアルでシュールな怪獣からかわいいぬいぐるみまで・・・!

右から紹介していきます。

–モフモフしていて、かわいいですね。

でしょう? 「帝江(ていこう)」です。『山海経』にも登場する怪獣で、足が6本、羽を4枚持ち、目も鼻も口もないのですが、歌って舞うという記述もあります。ちなみに「モフモフしている」とは書いてありません(笑)
作家の魯迅も、子どもの頃に絵が付いた『山海経』を買ってもらって大興奮したと自らの回想録に書いているのですが、よほど気に入ったのか帝江についてもその名を挙げています。日本でも知る人ぞ知る人気の怪獣で、例えば、このぬいぐるみは立命館大学中国文学研究室さんのマスコットとして作られた「てこちゃん」ですが、私も懸賞企画に応募して当選したものです。

日本のフリーイラスト素材集「いらすとや」(右)にもいました! 左:『山海経』より 右:「いらすとや」より

映画会社マーベル・スタジオが製作し、2021年に日本でも公開されたヒーロー映画『シャン・チー テン・リングスの伝説』にも「モーリス」という名前で登場しています。

–世界デビューも果たしているんですね!

そうなんです。多くの人に知ってもらえてうれしいです。

続いて、2頭目の推し怪獣は、チャイニーズ・ネッシーとも呼ばれる天池の「水怪」(すいかい)です。
日本でも1970年代に北海道・屈斜路湖のクッシー、鹿児島県・池田湖のイッシーなど、各地の湖で怪獣の目撃報告がありましたが、中国にもあるんです。ネス湖のネッシーもそうですが、現代の水棲怪獣はみな首長竜的なイメージで目撃されちゃうんですね。科学的には実在しないのが濃厚でも、こんなのがいてほしいというロマンを感じます!

屈斜路湖の「クッシー」や池田湖の「イッシー」のグッズも研究室にありました

この「水怪」は、1980年代に吉林省にある長白山のカルデラ湖「天池」で目撃されています。“長い首を持った牛のように大きな動物”の目撃事件が続発し、新聞でも大きく報道されて反響を呼びました。「天池怪獣」とも呼ばれます。

1990年代には、天池近隣の長白山自然博物館に「怪獣伝説展示室」が設置されたり、漫画チックにデフォルメした観光マスコットキャラクターを作ったり、関連グッズを販売したりと、観光資源化が促進されました。ブームをビジネスにつなげようとするのは世界中どこも同じのようです。

私が現地で購入したこの置き物もブームの一環で制作されたものです。台座には「聖獣」と書かれています。説明書には「古来よりこの聖獣が現れると気候も安定して五穀豊穣で、邪気を払い、無病息災で財をなす・・・」という新伝説まで付けられています(笑)

–神秘を敬い、ありがたがるのは日本人と共通ですね。では、最後の“推し”の紹介をお願いします!

3つ目は、「野人(やじん)」です。私の大学院時代からの研究対象でもあり、思い入れが強い推し怪獣です。

中根教授は「野人」をめぐる中国国内の騒動をまとめた書籍や論文を多数書いています。

–見た目のインパクトがすごいですね!
「野人」は、1970年代に湖北省神農架(しんのうか)林区で目撃報告が相次ぎました。見た目は人間に似た、毛むくじゃらの怪獣です。中国版「雪男」ですね。
1974年に人間との格闘事件が報告されて以来、謎の「野人」の出没が噂されるようになり、1976年以降は、国家レベルの調査隊も送られ、その様子が国内外に報道されました。「サルと人との中間的な動物」、「人類進化の鍵を握るミッシング・リンク」の存在を解明することは、当時の中国にとって思想や科学の面からもそれなりに意義のあることだったのですね。ちょうど文化大革命が終わり、このような人々の好奇心を煽るようなネタを新聞などで取り上げることが可能になった時期でもありました。

ただ、その目撃談のほとんどは、昔から伝わる山の怪獣伝説を現代的に多少アレンジしたものばかりです。ちなみに、最初に格闘事件を報告した男性は、後日、実は作り話だったと告白、「子どもが外で夜遊びをしないように脅かすためだった」と話しています。そこに様々な人々の思惑が乗っかったことで話が大きくなったのですね。

1980年代のアマチュア「野人」調査団体の機関誌『野人探奇』(左)。1990年代にもしばしば雑誌で特集が組まれました(右)。

その後、1980年をピークに騒ぎは収束するのですが、1990年代後半から再び、怪獣たちが大暴れを始めます。神農架を観光地化したいという思惑もあったと思います。「野人」報道が増えたり、「野人」ツアーが企画されたり。「天池怪獣」と同様に、観光資源として再利用され、新たなグッズ展開も進められました。

中国留学時代、中根教授も「野人」探しへ。

近年は、現実にいるかどうかより、先に挙げた映画など、怪獣をテーマにしたフィクションを楽しむ流れが強まっています。

怪獣は謎だから面白い

–怪獣文化から中国らしさを感じるところは?

一つは、目撃報告の中に中国の昔の伝統が脈々と息づいているなと感じます。「野人」にしても「水怪」にしても、何か新しい不思議な現象が出てきた時に、全く新しい未知のものと捉えるより、「昔の文献にこう書いてあったぞ、これじゃないか」と記憶と記録の検索をするんですよ。

新聞の報道もそうです。古い文献を引くんです。例えば、「水怪」なら「この湖には龍の伝説があって、この龍こそ『水怪』の正体かも」というような言い方ですね。

–さすが四千年の歴史を誇る中国ですね。最後に先生が怪獣を研究する理由を改めて教えてください!

未確認動物としての怪獣について言えば、結局、謎が解けないところでしょうか。「絶対にいない」とは断言できず、未知の部分が必ず残ってしまいますが、それについて考え続けるのが面白いというふうに言えるかもしれません。フィクション世界の怪獣についてもいろいろ調べていますけども、怪獣の物語が生まれてくる社会的背景や人間側の事情など、時代によってもどんどん変わってきますし、興味が尽きることはありません。

近年話題の「ゆるキャラ」や「ご当地キャラクター」も、突き詰めれば怪獣の一種だと思います。様々な事情を背負ってそれぞれの地域に生まれてくる異形の存在、という意味では。そういった身近なところから怪獣に興味を持ってくれたらうれしいですね。

文: にの瀬
編集:ナベ子(Sitakke編集部)
取材協力:中根 研一教授(北海学園大学 法学部法律学科教授)

取材日:2023年3月

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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