北海道から新しいものをつくり続けるクリエイターたちの素顔や視点を覗く「HOKKAIDO CREATOR INTERVIEW」。今回は、Sitakkeのコラムでイラストを担当するなど、札幌を拠点に活躍しているフリーランスのイラストレーター・まるいみさきさんにお話を聞きました。

まるいみさき/イラストレーター・絵本作家
新十津川町出身。肩の力がふっと抜けるイラストが持ち味で、全国から依頼を受け、ロゴや広告、グッズなどのイラスト、建築物などの手描きパース(完成イメージイラスト)、似顔絵などを手がけている。作曲家の夫と8歳・6歳(2023年3月現在)2人の娘さんとの4人暮らし。

「今では、さまざまな企業さまから案件をいただき、好きなイラストを楽しみながら描けていますが、ここまで来るのは大変でした」と話してくれたまるいさん。「ある時までは 『母の頑張り=家族の幸せ』と考えていた 」そうで、「そうじゃなくて『大事なのは自分自身を許して機嫌良く笑っていること』だと気づき、意識するようになったのが現在に至るきっかけ」だといいます。そうした仕事や育児、家事への姿勢について教えていただきました。

まるいさんご本人のイラストによるご家族紹介

まるいさんはSNSにて個性豊かなご家族との日常を発信しています。人一倍感受性が強く心配性で「HSC(※)」と診断された、やさしい性格の8歳の長女、妙に大人っぽい発言をする6歳の「ささやき女将」次女、作曲家のご主人との楽しいやりとりについて描いたマンガを今後、Sitakkeでも連載予定です。

※HSC(=Highly Sensitive Child)/「ひといちばい敏感な子」
HSCとは「ひといちばい敏感」という気質をもつ子どものことを指します。
5人に1人の割合で存在するとされ、まぶしい光や大きな音など外部の刺激に対して敏感であり、2つ以上のことを同時に取り組む際にパニックになりやすいなどの特徴が挙げられます。また、感受性が強く、豊かな想像力があり、芸術や自然に深く感動する傾向にあると言われています。(参考「HSCの子育てハッピーアドバイス」著者:子育てカウンセラー 心療内科医 明橋大二・1万年堂出版(2018))

まるいみさきさんのInstagramより抜粋

キャパオーバーになって気づいた、家族にとって大事なこと

–2020年からフリーランスのイラストレーターとして活動されるようになったそうですが、そこまでの経緯を教えてください。
幼い頃から絵を描くのが大好きで、イラストレーターになるのが夢でした。大学で美術を専攻しましたが、卒業後すぐにプロとしての道を歩むことは叶わず、ガラス工芸を扱うお店で3年、専門図書の出版社で4年働きました。

「おっぱい」をテーマにした卒業制作(大学時代)

そして11年前の2012年に念願のイラストレーターとしてガーデンデザイン会社に転職。「パース」と呼ばれる完成イメージのイラストを担当することになりました。イラストレーターの求人はずっと探していましたが全然見つからず、もう幻かなと思っていたので、見つけた時はとても嬉しかったです。大学時代から交際していた現在の夫と結婚したのも、この時期です。

–良い流れが来ていますね!

ところが、その後がなかなか大変だったんです(笑)

作曲家の夫と音楽出版社を起業し、私が経理や事務を任されたのですが、金銭感覚の不一致などでずっとケンカの日々でした。さらに次女を妊娠し、勤めていたガーデンデザイン会社を退職することになって。夫のように独立を考えましたが、夫婦ともにフリーランスになるのは不安があり、産後にパン屋さんでアルバイトを始めました。

そのうち夫の出張も重なって、私はダブルワーク(経理とパン屋)&育児(0歳児&イヤイヤ期真っ最中の2歳児)&家事のワンオペを続け、ついにキャパオーバーに。ある日、頭がぼーっとして何も手につかなくなってしまいました。病院に行って相談すると、生理前に精神が不安定になってしまうPMDDを発症しているのに加え、通常の血液検査では発見しにくい隠れ貧血というのも判明しました。

それ以上に落ち込んだのは、私が笑えないことで子どもを不安にさせてしまっていたと気づいた時です。すべてを夫に話し、役割分担やタスクを見直すとともに、「家族の幸せのために大事なのは、いつもみんなが機嫌良く笑っていられること」だと意識するようになりました。「母や妻として○○しなければ」とマストに縛られ過ぎていたことを反省し、それ以降は「とにかく生きて笑っていればいいという思考になりました。

–確かに、子は親をよく見ていると言いますよね。

とはいえ実践するのはなかなか難しかったです。自分自身で、これでよしと思えるまでに4年くらいかかりました。貧血で朝起きられないことに自己嫌悪しつつ、夫に家事育児を全部任せる生活を長く続ける中で、<大丈夫、誰も責めてはいない、許し合っている>という心の持ちようの練習を重ねました。
すると、自然と私も周りの人を許せるメンタルになり、子どもや夫への声かけが以前よりたくさんできるようになりました。さらにみんなの発言や出来事が面白くて、忘れてしまうのはもったいないぞと、メモ代わりにイラストで表現してSNSにアップする心の余裕も生まれました。

イラストレーター、絵本作家の夢を実現

–素晴らしい! ただしばらくイラストの仕事から離れていたようですが、そこから独立することになったのは?

やはり夢を諦めたくないと一念発起したんです。SNSやメール、Webサイトでの営業活動を開始、スキルシェアサイトの登録もしました。

特にSNS上でイラストを投稿する取り組みは、毎日コツコツと続けるように意識していました。ですが、なかなかフォロワー数も伸びず…「投稿する意味あるのかな。私のイラストを必要としてくれる人って本当にいるのかな」と思う日々が続きました。
そんなとき、青森県で行われた作品の展示・販売会に参加した際、嬉しい出会いがあったんです。私の展示にふらっと立ち寄ってくれたお客さんが「この絵、初めて見た気がしないんですけど…あっ!インスタでフォローしてました!」と声をかけてくれたんです。

展示会に参加することは、インスタで告知をしていなかったですし、まさか地元でもない青森で、自分のフォロワーさんに偶然出会えるなんて…。もう言葉にはできないほどの喜びがありました。「描いててよかった!」って。
絵本作家になる夢もこの時期に実現できました。最初は娘を喜ばせたくて自作していたのですが、夫の提案で販売を目指すことになったんです。ストーリーは夫が考えてくれました。さらには、完成した絵本の読み聞かせ動画(https://youtu.be/cY4I_EkaLIA)をYouTubeにあげようとなり、ナレーションを娘2人が担当。次いでテーマソングを作ろうとなり、夫が曲を作って娘が歌を。家族全員が絆を深めた時期でした。

–素敵です! そうした活動を始めて、1年後に初めての依頼を受けたんですね?

そうなんです。東京にある企業の依頼で、手描きパースを担当しました。

企業案件の手描きパース

実績が1件でもできたことが信頼感につながったのか、その後は少しずつ依頼をいただけるようになりました。今では私と子ども2人の生活費をまかなえるくらいの仕事を受けられています。

– すごい!絵本のセリフにもあった「あきらめないという気持ちだけは忘れない」が実を結んだんですね!

そうですね。やはり好きなことを仕事にできるのはワクワクします。意欲もますます湧いてきました。いろんな案件に挑戦してみたいですし、絵本ももっとつくりたい、海外案件も受けてみたい、子ども向けのアート教室も開いてみたいです。

コミカルタッチなイラストもキュート!

5人に1人が当てはまると言われる「HSC」を認めたら、子育てがラクになった

– 最後に、今後、Sitakkeでの連載テーマの一つである、娘さんのHSC(※「ひといちばい敏感な子」)について教えてください。まず診断を受けたのはいつですか? 何かきっかけが?

1歳半くらいの時に、食事中に私がティッシュを使いたいなぁと思っていたら近くにあったティッシュ箱をスッと差し出してくれたり、気が効く子だなとは思っていました。
診断を受けたのは4歳の時です。登園を強く嫌がるようになった上に「保育園のみんな、私のこと、いらない子って思ってない?」とか気になる発言をするようになって、目に見えて笑顔も減ったんです。保育園の方に聞くと、元気に友だちと遊んでいるというし、しばらくは園と協力して見守ることにしたのですが、様子は悪くなるばかりで。専門の病院に相談に行くことにしたんです。

すると「HSCの傾向が見られるので安心感のある環境に身を置くように」「好きなことを、安心できる場所でやらせてあげて」「肌触りの良いぬいぐるみに触れさせるなどで安心感を」といったアドバイスと、園への手紙をいただき、保育園に伝えたらよく理解してもらえて。そこから娘の様子も随分よくなりました。小学校に進んだ今も、先生と情報を共有できていますし、娘も楽しそうに通っています。

※敏感であるがゆえに園や学校で人一倍疲れてしまうお子さんは少なからずいるようです。ちょっとした配慮で過ごしやすくなるかもしれませんので、HSCかも?と思ったら、まずは専門書などを参考にしてみてください。

ご自宅兼・アトリエで作業中のまるいみさきさん

– なるほど。今後、Sitakkeの連載でさらに詳しく紹介させてください!

よろしくお願いします!

****

~取材を終えて~
柔らかい話し口調ながら、その芯には溢れるバイタリティを感じさせるまるいさん。「もっと頑張らなきゃと無理をしてしまった後に、肩の力を抜いたら少しずつ状況が好転していった」というエピソードに勇気づけられる方は少なくないのではないでしょうか。

Sitakkeでは、毎週火曜日に、まるいさんの、""頑張りすぎない"日常を描いたマンガを配信することが決定しました!
連載タイトルは『まるい一家の”がんばりすぎない”日記』。ついつい頑張りすぎちゃうあなたに、ゆる~っと読んでほしい作品です。
ぜひチェックしてみてくださいね!

文: にの瀬
編集:ナベ子(Sitakke編集部)
取材日:2023年1月

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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