大勢の、というわけではないのだが、最近末広町界隈に人が、とりわけ若い世代の姿を見かけるようになった。コロナだからということもあるが、彼らは雰囲気的に観光客ではなく地元に暮らす若者たち。特に、二十軒坂下のセレクトショップ・LOFTの週末は、サンドイッチ屋『HOTEIYA』、流しの花屋『#fff』が店を開き、店先には吟味したナチュラルワインを飲ませる『nurture OR NATURE』のテーブルと椅子が出され、どうにも楽しげ。
この流れがあって、さらに今年はRE:MACHI&CO(富樫雅行建築設計事務所)主催のイベント『街角NEW CULTURE』が十字街・旧king of king周辺で夏と秋に開催され、どことなく、西部地区にそれまでなかった雰囲気の、小さくも一過性でない賑わいが広がっている。
そう感じていた矢先、まるで追い風のように現れたのが今回紹介する『大町改良住宅』だ。もともと1階のテナントにはコインランドリーやドーナツ店が入っていたが、その並びで長らく空いていた物件に、珈琲屋、古着屋、ハンバーガー屋が続々とオープン。「大町・路地裏」というひそやか、かつ新鮮な雰囲気もあいまって、注目を集めている。
この3店舗の仲介をしたのは、(株)蒲生商事の常務取締役・蒲生寛之さん。所属する箱バル不動産では、西部地区の古建築や街並み保存に尽力する一人で、同住宅には、2年前にコインランドリーのテナントの売買があったことをきっかけに可能性を感じ、その後、ほかの空き店舗の所有者を探し出して買い取りも行った。そうして仲介する4軒のうち、先の3店舗がオープン、現在は残る1軒の入居者を募集中だ。
「以前手がけた大三坂ビルヂングと比較すると、大三坂~は建物に歴史的価値があるため“再生”の印象が強かったと思いますが、今回の大町改良住宅は、建物ありきというより使う人次第でどのようにも活かせるという面白さがあります。しかもこれだけ一気にオープンが続くのは非常にポジティブな流れ。個人的には、西部地区でのこれまでの活動がひとつ、実を結んだようにも感じていますね」
さて、入居するテナントのうち、最も新しい店は10月にオープンしたばかりの『WALDEN BURGER SERVICE』。ハンバーガーショップ開業を目指し、長らく東京や札幌で経験を積んだ店主・米原久佳(ひさか)さんが満を持して開いた店だ。開業の地を札幌にする案もあったが、故郷・函館で、しかも学生時代よく通った西部地区にこの物件があることを知り、決断に至る。
そして、そのひと月前にオープンしたのがアパレルショップ『9.(ナインドット)』。ここは大野彩奈さんと伊原丈一郎さん2人の店で、ユーロミリタリーなどの古着と、レディースにはトレンドの韓国ファッションをそろえる。店を開くにあたって、西部地区で物件探しをしていた際、この場所を見つけ入居に至った。
主に、バラックなど老朽化した木造住宅が密集し、火災などの危険がある地区を整備した際、従前居住者が入居するための市営住宅を指す。1階部分は、そこで商売を営んでいた者が所有権を持ち店舗として利用するケースがある。大町改良住宅は1972年築、かつては1階部分に中華食堂、鮮魚店、青果店などが軒を連ねていた。数年前に、市で建物の耐震改修やエレベーター設置を行っており、次ページで紹介する伊勢真樹建築設計事務所や鳴々門珈琲は、このことが入居を判断する決め手となったという。
住所:函館市大町3-16
●WALDEN BURGER SERVICE
Instagram:@walden.burgerservice
●【9.】(ナインドット)
電話:0138-85-6962
Instagram:@9._hakodate