2021.10.16

育む

母は受け入れてくれると思ったのに… 性別の違和感を「言いたい理由」と「言えない理由」【親の心、子知らず。子の心、親知らず。#4】

母親に本当の自分を認めてほしい…。

トランスジェンダーの息子と、その母親が、交代で心の中を語る連載、「親の心、子知らず。子の心、親知らず」。

第4回の今回は、息子の高橋愛美さんが、性別の違和感を打ち明けるまでの葛藤と、母親とすれ違ってしまった理由を振り返ります。

(過去記事一覧:親の心、子知らず。子の心、親知らず

「女の人に、そんなこと言ったら失礼でしょ!!!」

「トランスジェンダーの私は、自己紹介などで性別を説明しないと、さまざまな『困りごと』が発生してしまう」と、前回の記事に書きました。「どんな困りごと?」と疑問に思った方もいらっしゃると思うので、最近、いちばん困ったことを例に挙げて、解説します。

愛美さん(当時20)

私は教師を目指しているので、学校にサポートの先生として参加する活動をしています。「きょうは、このクラスお願いします~」みたいな感じで、いきなり新しいクラスにサポートとして入ることも多々あります。

知らない先生が入ってくるので、子どもたちはかなり興味津々な様子で、「誰!?」「イケメンの人が来たー!」「お兄さんが来た!!」などと、低学年だと特に、見た目の感想を声に出して言ってくれます(笑)

そこまでは全然問題ないです。私は、体は女性ですが、男性として見られたいので、むしろ「かっこいいって言ってくれてありがとーー!!」って心の中で思っていました。(笑)

しかし、子どもたちの反応を聞いた担任の先生が、怒鳴り声をあげました。
「女の人に、そんなこと言ったら失礼でしょ!!!」
担任の先生には名前だけは伝えてあったので、私が女性であると思っていたみたいです。

子どもたちはポカーン。私はとても申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

子どもたちは私を褒めてくれていたのに、怒られてしまったんです。

その後、このような勘違いのせいで、理不尽に子どもが怒られることのないように、職員全員に自己紹介で性別を説明するように言われました。

学校の先生全員にカミングアウトするのは恐怖もありましたが、慣れていたのもあって、しかたなく説明しました。「見た目や名前で、勝手に性別を決めつけるのはやめてほしいな~」と思ったできごとでした。

本当の自分について「言いたい理由」と「言えない理由」

ということで、「カミングアウト」という言葉が出てきましたが、今回はそれに関わるお話です。

今でこそ慣れてしまったカミングアウトですが、高校2年生になるまで、自分がトランスジェンダーであることを誰にも明かしていませんでした。

愛美さん(当時17)

明かさない理由は沢山ありました。
「違和感はあるし、確実に嫌な思いはしているのに、それを言語化できる知識がなかったので、自分も自分が何者なのかをはっきりとはわかっていなかったし、説明できる自信がなかった」
「言ったら否定や拒否をされるかもしれないと思っていた」
「一部に受け入れられたとしても、その人も同じように秘密を抱えなければいけなくなることを想像したら、申し訳ないと思っていた」
「兄弟の友人にこのことが知られたら、そのせいで兄弟がいじめられるかもしれないと思うと言えなかった」
「祖父母にこのことが知れたら、産んだ母が責められるかもしれないと思っていた」

言いたい理由ももちろんありました。
「本当の自分を認めてもらいたい」
「好きな格好や髪形をして、好きな人と楽しいことをしたい」
「女の子扱いされるのが嫌だ」
「このまま女性として生活しなければならないと思うと、ゆううつな気持ちになる」
「性別が関わる悩みごとを相談できないのがつらい」

『言いたい理由』と、『言えない理由』を天秤にかけては、『言えない理由』がとても重いと感じ、胸の奥底に沈めていたと思います。墓場まで持っていく案件だと思っていたこともありました。

そんな私がどうしてそのタイミングで母にカミングアウトしようと思ったか。それは簡単です。
限界だったからです。

「女の子なんだから」というまくら言葉が、いちいち気に障ってしまう。私がなりたい自分と、母が想像している未来に食い違いがありすぎて、将来の話ができない。
求められるもの」と「求められたいもの」の間に差がありすぎて、限界が来てしまいました。

それに一つ、希望もありました。私には知的障害のある弟がいます。

右から愛美さん(当時3)、弟(当時1)、父親

「障害について理解しようとしている母が、性同一性障害を拒否するはずがない!」
この唯一の希望を胸に、限界だった私は、カミングアウトをすることにしました。

しかし、結果は散々でした。拒否はされなかったものの、同性愛か両性愛だと決めつけられ、「自分からわざわざ生きにくい道を選ぶ必要はない」と言われました。

まず、私自身が性別についてしっかり理解していませんでした。
「男なのかもしれない。好きな人が女の子なんだよね。」

こんな曖昧な、少ない情報で、お互いに混乱しないはずがありません。「レズビアン」「トランスジェンダー」「性同一性障害」という言葉の意味を整理できていないので、母からの質問にしっかり答えることもできませんでした。

カミングアウトしたら、今より楽になるはずと思っていましたが、お互いに何を考えているのかがわからずに、探り合い、試すような言葉で傷つけあう毎日が始まりました。

あら~。またまた、くら~い感じで終わっちゃいますね…。
ですが安心してください!これから関係は良くなっていきます!次回はそこまでの過程や、今の活動について書こうかなと思っています。

右端が愛美さん(当時21)。弟2人(当時19・13)と母親の愛紀さん

それではまた。

文:高橋愛美(たかはし・まさはる)
トランスジェンダーとして生まれ、性別に配慮のある教員を目指して大学院で勉強中。母親の高橋愛紀(あき)は「SOGI-Mamii's」を立ち上げ、「SOGI」という概念(Sexual・Orientation・Gender・Identityの頭文字で、性的指向/性自認のこと)を広めるべく活動中。

編集:Sitakke編集部 IKU

過去記事一覧:親の心、子知らず。子の心、親知らず

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