2021.10.16

育む

「ママ…大事な話があるんだけど…自分は男だと思う」16歳の“娘”の一言がきっかけで気づいた、大切なこと【親の心、子知らず。子の心、親知らず。#3】

もしも、娘として育ててきた子から、「本当は息子なんだ」と言われたら…。

トランスジェンダーの息子と、その母親が、交代で心の中を語る連載、「親の心、子知らず。子の心、親知らず」。

第3回の今回は、母親の高橋愛紀さんが、息子の愛美さんからカミングアウトされたときを振り返ります。

(過去記事一覧:「親の心、子知らず。子の心、親知らず」)

「娘」からの突然のカミングアウト

「ママ…大事な話があるんだけど…自分は男だと思う」

正直、「長女は、よくいる女の子ではないな…」となんとなく気づいていたけれど…カミングアウトは突然に感じた。戸惑った。

高校の学校祭で 愛美さん(当時16)

本人の前では受け止めるだけ。
「いつもよく家に遊び来る子!もしかして彼女だったりとか?」
「なんで、わかったの?」
思い返すと、実にあっさりとしたカミングアウトアウトだった。

スポーツが大好きな、ボーイッシュな女の子だと思っていたけど…違った。すんなり「そうだったんだー」って、理解できる人がどれだけいるだろうか?

娘から息子になった…いやいや、もともと息子だったのだということが理解できるまで、それ相当の月日が私には必要だった。こんな大変なこと、本当はすぐになんとかしてあげたいのに…早く理解してあげなければならない状況なのに。何もできない…親ってほんと無能…。

でもね…親って子どもの急なSOSに動揺する訳にはいかなくて…。

「ひとり一人違うこと」次男の障がいで理解していたはずなのに…

私には3人の息子がいる。第2子の障がいを知ったときのことを思い出し、振り返る。

愛紀さんと次男(当時1)

小学校就学前、「1年ないし2年ほど、発達が遅れています」と言われたとき。10歳になり、「療育手帳(※知的障がいがあると判定された人に交付される手帳)の申請はどうなさいますか?」と言われたとき。

親は子に何かあったとき、どう思うか…。

自分の何が悪かったのだろう。妊娠中の胎教がよくなかったのかな?食べさせていた毎日の食事が悪かったのかな?育て方に問題があったのかな?それとも、赤ちゃんのときにかかった病気が原因だったのかな?

考えることは、とめどなく次から次とあふれ、自分を責めるのだ。

親としてできることを見つけては、どんなことにもチャレンジした。ボランティア活動を通して、私と同じように障がいを抱える子を持つママに出会い、自分の子以外の障がいを抱える子たちに励まされ、いやされていった。

障がいを抱える人もみんな、授かった平等な命で懸命に生きている。そして、障がいを抱え必死に生きる人たちもみんな、ひとり一人違うことにも気づかされた。

そうして、次男の障がいは、私自身少しずつ理解し、受け止めることができたのに…。

なぜか…愛美からのカミングアウトは、すんなり受け入れることができなかったのだ。

愛美さん(当時3)、次男(当時1)

我が子だからこそ、何も聞けない

16歳の夏…「ママ…大事な話があるんだけど…自分は男だと思う」と言われた日。深夜、布団に入ってから泣いた。次男のときと同じ…。

眠れず、携帯電話を開き、インターネットで手当たり次第検索した。「性同一性障がい」、「性別適合手術」、悪い情報、良い情報、「レズビアン」…「LGBTQ+」…?

全く何にあてはまるのかが分からなかった。そして、本人を傷つけたくないあまりに、何も聞けない…。

病気やいじめ、不登校などの悩みとは違う。

次の日、主人と母に相談をした。アウティング(※本人の同意なく、公にしていない性的指向や性自認を第三者に暴露する行為)なんて恐ろしい言葉も、このときは知らなかった。

数日たって、自身が中学時代にお世話になった恩師に相談をした。少しだけ気持ちは楽になった。医療機関を勧められた。

しかし、本人に「病院に行く?」と聞いても、「そういうの、いらない…」と言われる。

左から三男(当時8)、次男(当時15)、愛美さん(当時17)

「我が子は何も変わっていない」

カミングアウト後の「娘」は、スッキリしたように見える。話し方も歩き方も、突然男性に寄せているように見えた。無理に男性として生きようとしているように見えて、しかたないのだ。私は「娘」がどこかに消えていなくなってしまうような感覚を覚えた。

心配して言った一言が伝わらない。
「手術もホルモン療法も、たくさんのリスクがあるみたいだよ!」
「ママ、そういうのしてほしくないから、そういうこと、言うんでしょ!やっぱり分かってくれてないじゃん!!」
時が経つにつれて、親子関係はギクシャクしていった。

最初は何も聞けなかったのに、いつしか傷つけることも言うようになっていった。カミングアウトがあったあの日から、我が子が我が子じゃなくなってしまったような…。

でもね…カミングアウト前も、カミングアウト後も、実は、我が子は何も変わっていないのだ。「女性から男性?男性から女性?」という理解をしようとするから難しいのだ。本人が言っていることをそのまま理解すればよかったのだと、今なら理解できる。

アメリカのFacebookの性別欄は58通りあるって、みなさんは知っていますか?性別って、男女二択じゃなんです。私も、「LGBT's」という個性を表す言葉と「SOGI」という概念を知っていたなら…我が子にかける一言目が違ったのにな…。

文:高橋愛紀(たかはし・あき)
SOGI-Mamii'sを立ち上げ、「SOGI」という概念を広めるべく活動。ラジオ番組「高橋愛紀が贈る~SOGI-Mamii’s ハピネス♡Umbrella☂」に出演中)

編集:Sitakke編集部 IKU

過去記事一覧:親の心、子知らず。子の心、親知らず

※LGBTQ+
以下の4つの頭文字をとった、セクシュアルマイノリティの総称の一つ。
L(レズビアン)…女性同性愛者
G(ゲイ)…男性同性愛者
B(バイセクシュアル)…両性愛者
T(トランスジェンダー)…戸籍の性別と認識している性別が一致していない人
Q(クィア・クエスチョニング)…規範的な性のあり方以外を包括する概念・わからないと感じる人
他にも様々なセクシュアリティ(性のあり方)がある。

※SOGI(ソジ)
Sexual Orientation & Gender Identity(性的指向と性自認)の略称。LGBTQ+の当事者かどうかではなく、誰もがもつアイデンティティであり、SOGI を考えることはすべての人の「生きやすさ」につながる。

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Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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