2021.10.08

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北海道に呼び込め!外国人旅行者の「シン・体験観光スタイル」アドベンチャートラベル

アフターコロナの旅行ニーズには、「開放的、少人数、清潔、滞在型」というキーワードがあるようです。欧米を源流とし世界に波及する可能性を秘めた、新しい体験観光スタイル「アドベンチャートラベル」 は、こうしたアフターコロナの旅行ニーズにも応えられることや、北海道の自然資源・文化的資源を活用できることもあり、ますます期待が寄せられています。

今回は、これからの北海道観光のスタンダードになるかもしれない「アドベンチャートラベル」について、その内容を探ってみたい、と思います!

アドベンチャートラベル(AT)とは?

アドベンチャートラベル(AT)は、カヌーやトレッキング、サイクリングなどのアクティビティを、単なるアウトドア体験と扱わず、アクティビティを通じてその地域のありのままの自然の豊かさ、生態系、歴史文化を、地域の方々とともに旅行者が体験する旅行形態です。

AT旅行者が求める「体験価値」がこちらの5つのキーワード!

・AT旅行者の目的は、旅行者自身の自己変革・成長の実現。
・AT旅行者は、欧米人で教育水準の高い富裕層の割合が高く、1~2週間の長期滞在を好みます。
・アウトドアギア(用具、装備)にもこだわる層が多い。
・旅行者はATを通じて、地域の自然・社会環境のサスティナビリティ、地域住民の雇用・所得向上に貢献できるかといった視点を重視。(地方創生への貢献、観光による自然や住民生活等への負の影響抑止など)
・ATの市場規模は、北米・欧州・南米の主要地域でそれぞれの国内市場を除く海外での消費額のみで推計6830億ドル(76.5兆円)の経済効果があるとされています。

写真はイメージです

ATという観光スタイル

1~2週間という長い滞在期間で「旅からの学び」を求めて旅行先に来ているため、地域にある数多くの観光地や体験メニュー(コンテンツ)を、手っ取り早く組み合わせる旅行は、AT旅行者に満足されないそうです。
日本の国内旅行の感覚と違い、まずは、それぞれのコンテンツに一貫したテーマ(ストーリー)をもたせることが重視されます。
幸い北海道には、大陸と異なる変化に富んだアクティビティにふさわしい自然、固有のアイヌ文化・縄文文化、バラエティ豊かな食、温泉といったテーマになる素材がたくさんあります。
ここではATのテーマ事例として、JP01の2021夏号特集で掲載したATの記事から、日本遺産認定「カムイと共に生きる上川アイヌ」をテーマにした旭川市の日帰りツアーを紹介します。

アイヌとゆく歴史散策 日帰りガイド付き先住民文化ツアー

資料館ではなく、”家”のよう「アイヌの生活空間を体感」

【コース概要】
■旭川市中心部で集合
■川村カ子トアイヌ記念館(施設見学) ○日本最古で唯一の私立のアイヌ資料館を訪問 ○敷地内の家(チセ)でアイヌの日常を体験 ○その時期に採れる食材等を利用したアイヌ料理
■聖地・嵐山へ移動 ○自然散策(ハイキング) ○アイヌと植物の関わりを学ぶ ○嵐山山頂(展望台)
■旭川市内で解散

川村カ子ト アイヌ記念館にある展示物の説明

「記念館の展示と、生きている暮らしがつながっている!」参加者が実感するガイドツアー

先住民族の文化や考え方に共鳴し学ぶ動きが、世界で大きく広がっています。日本でも昨年7月の民族共生象徴空間(ウポポイ)誕生により、アイヌ民族への海外の関心も高まっていますが、その中で、施設見学だけではわからないアイヌの暮らしを体感してもらおう、と企画されたのがこのツアーです。

旅の舞台は、川村カ子ト(かねと)アイヌ記念館。今年で設立105年を迎える、日本で最も歴史あるアイヌ資料館です。その特徴は来訪者が「アイヌの日常に入り込める」距離の近さ。敷地内に建てられたアイヌの伝統的な家・チセは日常的に使い込まれていて『ヒサエさん(ガイド・副館長)の生活空間を訪問できた』と喜ぶ参加者もいるようです。

参加者にアイヌの歌(ウポポ)を披露するガイドのヒサエさん(左から3人目)

展示物の説明や、伝統的な歌唱を通じてアイヌの自然観を学んだ参加者は先ほどアイヌ記念館で学んだことが、そのままチセや囲炉裏など、目の前の「本物」につながっていると実感できます。さらに、その時期に採れる食材・保存の利く食材を利用したランチを味わうことで、その印象はより深まります。

全てのものに神が宿ると信じ、自然への畏敬と一体感を忘れないアイヌ文化。午後からはガイドとともに上川アイヌの聖地「嵐山」を散策し、自らの足でアイヌの世界を体感できます。

1週間近く火を炊き続けて鮭トバの燻製づくりは、ヒサエさんたちの日々の暮らしにある季節の風物詩。旅行客向けではないものの、時期が合えば見学は可能だ。

「全ての命にカムイが宿る。その思いに共鳴する自然散策

ランチの後に向かう先は旭川市郊外の嵐山。記念館から車で約10分ほどの移動をします。ここは毎春「チノミシリ・カムイノミ」と呼ばれる儀式が行われる場所。全ての命に感謝し、コタンの平和や幸福を願って祈りを捧げる儀式です。参加者はそうした説明を受けながら豊かな自然の中、歩みを進めます。
自然保護区の嵐山は動植物の宝庫。道すがら、植物や小動物についての説明を受けると、午前中の体験と相まって、アイヌが抱いている自然との一体感がよりリアルに感じられます。

全山が自然保護区となっている嵐山の散策路

食べるだけでなく、衣服や道具を作る術まで、植物の様々な活用法に長じているアイヌの伝承。ガイドを通じて語られるその豊かな知識・知恵に、ほとんどの参加者は驚きます。
また、嵐山の麓から展望台を目指して散策する距離は約2km。誰でも参加できる短めのトレイルですが、聖地の趣と、心のこもったガイドとの会話で密度の高い時間が過ごせます。その締めくくりは、フォトスポットとして有名な、嵐山展望台から望む大雪山連峰と、眼下に広がる旭川市の大景観です。
この日帰りツアーは5月から10月までの雪のない時期に開催されます。折々の自然が楽しめることも人気の理由の一つなのだそう。

嵐山展望台から望む大雪山と旭川市街

2018年、上川アイヌとその伝説に関連する20以上の遺跡が日本遺産に選定され、川村カ子ト アイヌ記念館と嵐山も対象遺産として認定を受けました。記念館は今日、日本で唯一のアイヌに関する私立資料館であり、地域のアイヌ文化振興に果たしている役割は大きい一方で、ローカルな資料館としての限界もありました。そこに新たな機会をもたらしたのが、アドベンチャートラベルでした。活発なアクティビティを重視するツアーも多い中、このツアーは移動距離が短く、アイヌ文化とじっくり向き合えます。日本語でのツアーも可能なので、外国人を魅了する北海道を体験したい方にもおすすめします。

Adventure Hokkaido

公式サイト:https://www.adventure-hokkaido.com/
メール:info■adventure-hokkaido.com(■に@を入れてください)
※日本語でのツアー案内についてはメールでお問い合わせください。

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記事参考資料
日本アドベンチャーツーリズム協議会ウェブサイト(https://atjapan.org/)
「アドベンチャートラベル大全」やまとごころBOOKS刊(水口猛・実重貴之・田中大輔著)

北海道発掘マガジン JP01

179市町村、14振興局のありのままの、でもありきたりではない魅力を共有し、「思わず出かけたくなる北海道」として皆様にお届けする北海道を発掘するフリーマガジン。

https://jp01.jp/

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