2024.04.16

暮らす

(第3話)魅力化の主役は誰なのか?【連載】夕張は倒れたままか?~北海道発・高校存続プロジェクトの現在地と課題

エールと課題と期待と

(左から3人目)橋場英和さん(夕張市・3月15日)

先月、夕張市では、過疎化を象徴する出来事がまたありました。市内でわずかに2つだけ残っていたJR駅の1つ「滝ノ上(たきのうえ)駅」が、利用者の減少を理由に廃止されました。その最終日の前日、ホームで列車を見送った橋場英和(はしば・ひでかず)さん(62歳)は、市内で飲食店を営んでいます。

橋場さんは、高校の魅力化プロジェクトを生み出すきっかけを作った有識者の「夕張市の再生方策に関する検討委員会(2015年-2016年)」のメンバーで、以来、街の活性化に向けて飲食店組合のまとめ役をしたり、高齢者や障害者が集まる場をつくったりしながら、市政の変遷を見つめています。

夕張市で飲食店を営む橋場英和さん

「高校魅力化のポイントは何でしょうか?大学への進学率を上げることでしょうか?それとも三笠高校(*注1)のように、料理など何かに特化した学校にすることでしょうか?生徒が行きたくなるようなポイントが見えないんです。市と高校でたくさん考えているんでしょうけど、私たち市民に夕張高校の存在感があまり伝わってこないんです」

「私は飲食業で、今回、寮生にお弁当を届けることの一部に関わらせていただくことになりましたが、高校の存続が地域にとってどういう関わりがあるのか、どういう経済効果があるのか、もう少しわかりやすい形で展開してほしいと思っています」

「いつまでに、誰が、何をするのか?以前、本州の高校の修学旅行生を夕張に誘致した時、その生徒からこう言われたんです。『去年も僕らの先輩が夕張に行って、街の活性化に意見を求められ、いろいろ提言したそうです。今年はそのどれが実現したのですか?』と。その時迎え入れた市民は何一つ答えられなかったんです。主役は若者です。実現が難しそうでも、まずやってみる、失敗してもやってみる。だって、もう落ちるところまで落ちた街なんですから」

北海学園大学経済学部教授・西村宣彦さん

橋場さんと一緒に「夕張市の再生方策に関する検討委員会(2015年-2016年)」の委員を務め、その後も夕張高校の地学協働推進コンソーシアム会議の委員を務める北海学園大学経済学部教授(地方財政学)の西村宣彦さん(49歳)は、市や住民が外からの意見や若者の意見に耳を傾け、共に成長することを期待してエールを送っています。

「夕張市の『高校魅力化プロジェクト』は、2016年に同市が策定した地方創生の総合戦略に盛り込まれて始動しました。夕張市では2007年に財政再建団体(現・財政再生団体)となり、人口減に拍車がかかるとともに、地元高校に進む生徒数も減少し、高校存続に黄信号が灯り始めていました。その頃、『財政再建10年』を検証する第3者委員会が設置され、『緊縮財政一辺倒』の財政再生計画を抜本的に見直し、『高校魅力化』のような地域再生に必要な取り組みにも力を注げるようになりました」

「『財政再生団体だから』『道立高校だから』『誰かがやってくれる』『どうせ無理』と諦めるのではなく、クラウドファンディングで資金を募り、他の地域も参考にしながら、全国的な高校改革の動きと夕張という地域の個性を踏まえた魅力化を、試行錯誤しながら模索してきました。オンラインと対面のハイブリッド型の公営塾『キセキノ』や地域資源を活かした商品開発(『長いもおやき』『夕張メロンプロテインチョコ』など)の探究授業などを通して、今の時代に求められる力(主体性、コミュニケーション力、実践力など)を育む場づくりに、地域と学校が連携して取り組み、今回、生徒の全国募集に踏み出しました」

「夕張は全国ブランドの『夕張メロン』の里であり、炭鉱町の歴史や文化や人情が今も残ります。苦難の歴史もありましたが、人口減少社会のリアルな課題にいち早く直面していること、そして地域課題が山積する中でも『どっこい楽しく生きている』心温かな市民の存在が、夕張市の教育資源として潜在的な強みだと思います。社会の変化や地域の課題と向き合いながら、夕張高校に進学した生徒一人一人の成長に寄り添った取り組みや環境づくりを、今後も進めていってほしいと思いますし、地域の側もただ受け入れるのではなく、外の視点や若者の視点から学び、高校生と地域の人たちが刺激し合い、共に成長していけるような機会にしていってほしいと思います」

入学式(夕張高校・4月8日)

夕張市は財政再生計画を3年後に終了し、いわゆる市の借金を返済し終える予定です。その時の人口はどうなっているのか?高校の魅力化プロジェクトはどうなっているのか?

道外からの初めての新入生となった植田さんの名前「梨々(りり)」は、父母が「10月生まれなので、秋の果実の梨になぞらえて、たわわに実る豊かな人生を送ってほしい」と思いを込め、名付けたそうです。

その期待を受け止めて走ることが、市にも高校にも地域にも求められています。

注1)三笠高校: 正式名称は北海道三笠高校。夕張市に近い三笠市にあり、同市は夕張市と同じくかつては産炭地の一つとして栄えましたが、現在は人口の減少が続いています。そのため同校は元々道立高校でしたが、生徒の減少で2012年3月に閉校し、その翌月から運営を三笠市に移管して、市立高校として開校しました。同校に普通科はなく、調理師やパテシエなどの育成に特化した食物調理科の単科高校で、国の補助金を活用したレストランや研修施設を併設するなどユニークな運営が進学希望者の関心を集めています。

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道半ばの“魅力化”事業

「夕張メロン」は地域名を冠したブランド商品として全国的な人気を誇り、今年も来月には出荷が始まります。その産地=北海道夕張市(ゆうばりし)には、「財政破綻した街」という枕詞が加わるようになって人口の減少が続き、市内で唯一の高校も廃校の危機に瀕しています。

「夕張は、倒れたままか…」。刺激的な言葉で理念を謳(うた)い、高校の存続を模索する同市プロジェクト「夕張高校の魅力化事業」は道半ばです。8年目を迎えた春に、プロジェクトの現在地と課題を3話連載で探ります。

◇文・写真 HBC油谷弘洋

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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