2023.03.11

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「ひとりじゃない」多様な性を生きる時代。小さなSOSを埋もれさせないために【札幌】

岸田総理の秘書官が、同性婚をめぐって差別発言をした問題。
そのニュースが拡散される中で、札幌でも、「パンク寸前」の状態になっていた場所がありました。

小さなSOSに向き合おうとする、札幌のNPO法人の取り組みです。

連載「じぶんごとニュース」

「否定されないとわかる場所」

札幌の中谷衣里さん。同性のパートナーと暮らしていて、多様な性を生きる人が「自分で自分の生き方を選べる」社会の実現を目指し、「NPO法人北海道レインボー・リソースセンターL-Port」の代表を務めています。

2021年、札幌の高校で性の多様性について授業をする中谷さん。イベントやメディアを通して広く発信をしている

「L-Port」では、「にじいろtalk-talk」と題し、「自分の性別がよくわからない」などの悩みを、LINEで無料で相談できる取り組みを行っています。
毎月2回、18:50~21:50に行っていて、「憶測から判断せず、ありのままを聞くこと」など、共通のルールを研修で学んだ相談員たちが対応します。

最初の2018年度には100件ほどだった相談件数は、22年度には400件を超えました。
その半数以上が10代以下、約3割が20代からの相談だったといいます。

「L-Port」の発表より作成

「L-Port」は2月末、活動報告会を開き、相談者へのアンケート結果を報告しました。

「相談する相手」についての質問では、「友だち」と答えた人が最も多く、「相談機関」が続きましたが、3番目に多かったのが、「相談しない」という人でした。
「にじいろtalk-talk」で相談した人の中でも、多くの人が「相談しない」と答えたという事実を、「L-Port」では“氷山の一角”ととらえています。

「L-Port」の発表より作成

悩みを抱え込まない環境づくりには、何が必要なのか?

「にじいろtalk-talk」への相談に一歩を踏み出した人の多くは、「LINEで相談できる」ことをメリットとして挙げたといいます。
LINEは、周囲の人に知られず、匿名で、気軽に、リアルタイムに相談できます。さらに、「声で性別を判断されずに相談できる」という声もあったといいます。

「L-Port」の発表より作成

「にじいろtalk-talk」に相談したことで、心の変化があったという声も、寄せられたといいます。
否定されないとわかる場所が、こんなに安心できる場所だと改めて強く実感した」
「いつも、これがなかったら死んでたと思う」
「意見を押し付けることなく、こちらの意向を重視してくださったことに感謝です。解決方法はないかもしれないが、自分の思いを伝えることで自分自身の心が整理できた

中谷さんは、「LINE相談は、はじめの一歩を踏み出しやすい。SOSを出すことのハードルを下げられる」と話します。

全国の動きの影で、小さなSOSが埋もれないように

そんな「ハードルが低い」相談窓口の必要性を、中谷さんが改めて感じたのが、総理秘書官の差別発言があったときでした。

2月3日夜、岸田総理の秘書官が、同性婚などをめぐり差別発言をした問題。
岸田総理は「内閣の考え方に全くそぐわない言語道断の発言」とし、翌日、更迭を発表しました。

ニュースは瞬く間にインターネット上でも拡散され、「若い世代の人の目に多く触れているのでは」と考えた中谷さんらは、日付が4日に変わってすぐの0時すぎ、TwitterでLINE相談のお知らせを発信しました。

「酷いニュースでしんどい思いをされている皆さんへ
本日18時50分~21時50分でLINE相談を開設しますので気軽な気持ちで是非相談にいらしてください」
「皆さんはひとりじゃないです」

2月4日のツイート

いつものLINE相談開設のお知らせツイートは、リツイートやいいねは合わせて10件ほどの反応だといいますが、この日のお知らせには、合計1200件を超える反応がありました。

急きょ、相談員をいつもより増やしたものの、受付を開始するとすぐに相談者が殺到し、「パンク寸前」の状態になったといいます。

総理のスピーチライターなども務める立場の人からの、差別発言。
中谷さんは、「気持ちを吐き出せる相手がいない」「未成年や学生など経済的に自立していない」「差別や偏見にさらされたときに対抗する術がない」という状況に置かれた若い当事者たちを、大いに傷つける発言だったと振り返ります。

そして、「差別に対して大きく『NO』という声を出すことも必要だけれど、同時に微弱なSOSをキャッチする役割も必要だと感じた」といいます。

イメージ

大きな動きの影で、小さなSOSが埋もれないようにする、「ハードルの低い」相談窓口。

今はすべての相談には対応しきれない現状で、新たな相談員を募集しています。
ほかにも月1回ずつでもSNS相談を行う団体が増えることで、「相談したい人が365日、どこかにアクセスできる」状態ができるのが理想だと話していました。

対面の居場所の「はじめの一歩」も

「にじいろtalk-talk」では、LINE相談を入り口に、必要とする人は直接当事者らと話せる居場所につなげています。

「L-Port」でも、月1回、札幌市北区の「エルプラザ」内の一室で、「にじいろ談話室」という居場所を開いています。

「にじいろ談話室」会場(L-Port撮影)

平日の16時半~18時半の回と、19時~21時の回があって、それぞれ最大8人ずつと少人数で開いているのが特徴です。
200円で参加でき、用意された飲みものを飲みながら、集まった人と話したり、ボードゲームをしたり、性の多様性に関する本やイベントの情報に触れたりすることができます。

「にじいろ談話室」に用意された本。さまざまな情報にも触れることができる(L-Port撮影)

「平日の夕方だと、放課後に友だちと遊ぶという名目で参加しやすい」「当事者が集うバーなどよりも、お酒を介さないコミュニケーションのほうが合っている」という人たちにとって、「はじめの一歩を踏み出しやすい場所になっているといいます。

「にじいろ談話室」に用意された飲み物(L-Port撮影)

20代が約半数で、10代から50代まで幅広い世代が参加しているといいます。
ひとりでは参加しづらいという人のために、奇数月はパートナーや家族、友だちと一緒に参加できるようにしています。

いつもは、少人数に限って、一人ひとりに向き合うことを大切にしている活動。
中谷さんは報告会で発信する理由について、「目に見えることの少ない相談現場の実態を伝えて、まだ情報が届いていない人に届けたい」と話していました。

「にじいろ談話室」会場(L-Port撮影)

多様な性のあり方が、当たり前になる社会。
それはひとつの団体だけで実現するものではありません。

自分自身の気持ちを大切にして、誰かに頼ったり、
社会にある差別に「NO」の声を上げたり、
自分の地域でも相談の機会を作ったり、
身近な人の想いに向き合ったり…。

小さなSOSと、向き合う人たちの想いを知った、私たちの行動にかかっています。

連載「じぶんごとニュース」

文:Sitakke編集部IKU

※掲載の内容は取材時(2023年2月26日)の情報に基づきます。相談の実施日時等については、L-Portのホームページ等でご確認ください。

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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