冬の訪れとともに履く頻度が増す、革靴やブーツ。あなたにとって、大切な一足はありますか?大切な人と会う時に履く靴、仕事や面接など大事な場面で履く靴、両親から受け継いだ靴、旅先で活躍する靴...。靴には人々のいろんな想いが詰まっています。
そんな大切な一足を長持ちさせるのに欠かせない、日々のお手入れ。自宅でもできる簡単なお手入れ方法について、靴磨き職人の林田直樹さんにお話しを伺いました。
林田さんが代表を務めるTHE LOUNGE by Brift H(ブリフトアッシュ)は、カウンター越しでお客様の靴を磨くという、世界初のスタイルで有名となった靴磨き専門店 Brift H(東京・南青山店)の姉妹店。来月12月からは新たに店舗を構え、道内で唯一の靴磨き専門店として、靴磨き文化の発信に力を入れています。靴磨きというと、工程が多くて時間がかかるイメージですが、自宅でも習慣的にできるお手入れがあるそうです。
林田: 靴磨きとなると結構面倒だと思うので、低いハードルから始めると良いと思います。簡単なところから始められるケアを3つご紹介しますね。
その1 毎日履かない
林田: 同じ靴を履かないってだけでもケアの一つ。一日中履いていると靴の中で汗をかきますよね。その汗が乾くのに、2日かかるといわれていて。毎日履いていると雑菌が繁殖して、においの原因になります。あとは、型崩れを防ぐためにも、できるだけ2日は置いておくことをおすすめします。
ーー履かないだけでケアできるっていうのは、究極な方法ですね!
林田: 学生の頃って、みんな足臭いじゃないですか。笑 あれって、毎日履くのが原因なんじゃないかなと思うんですよね。もちろん家庭によってそれぞれだと思いますが、今日は気分変えて、このローファーで学校に行こう!みたいな感じではないですよね。毎日履くのが一番傷みやすいんです。
その2 シューキーパーを入れてひび割れを防ぐ
林田: 次に実践してい頂きたいお手入れは、ひび割れや型崩れ対策としてシューキーパーを入れることです。高価なものもありますが、ショッピングセンターや通販でもお手頃な価格で手に入ります。
シューキーパーを入れるタイミングは2パターンあって。型崩れを防ぎたい方は靴を脱いだ後に入れて、汗が気になる方は脱いで一晩たった翌朝に入れています。どちらが正解とかではないので、お好みでいいと思います。ちなみに、僕は後者派。
ーーシューキーパーを使わない状態にしておくと、どうなるんでしょう?
林田: まず、歩いていると足の甲の動きに沿ってシワが入りやすくなるんですね。脱いでそのままの状態にしておくと、シワが入った状態で革の形が固ってしまうんです。そして、履く時にはシワが伸びるので、伸縮を繰り返してると、ひび割れが起きてしまうというわけです。ひび割れを防ぐためにも、シューキーパーを取り入れるのはおすすめです。
その3 水滴や雪の汚れを拭く
林田: 最後におすすめするお手入れは、雨や雪の日に水滴や雪の汚れがついたら、そのままにしないこと。拭く物は、汚れが落ちればなんでも大丈夫。特に冬は雪が付くと、拭いても隙間に残りやすいことがあります。もしお持ちの方は、ブラシで払ってあげて下さい。
これくらいでしょうか。これまで、靴のお手入れをする習慣がなかったという方は、この3つだけでも取り入れて頂くことで、より愛着が湧いて長持ちする靴を保てると思います。そして、次のステップで靴磨きの工程に入ります。
筆者が個人的に気になっていた、こんなことも訊いてみました。
ーースポンジタイプのケアもありますが、一瞬にして光沢が出るというのはどういうことなんでしょう?
林田: 成分については詳しくないんですが、結構強力で。艶が出るペンキを塗っている感じです。すぐに光沢が出るので、どうしてもっていう時には優れていますが、塗り続けていると、皮の表面ががびがびになってきて、取るのが大変なんです。絶対に使っちゃいけないということではないのですが、日常的に使うのはおすすめしないですね。
ここからは林田さんの職人技を見せて頂きながら、3つのケアの次のステップとなる靴磨きの工程について伺います。
ーー3つのケアをより深めたい方は、次のステップでどんなお手入れを?
林田: 大きく分けて磨きの工程は3つ。リムーバーでの汚れ落とし・革への栄養補給・ワックスで光沢を出すという工程があります。少し専門的になっていくと、馬毛・豚毛・山羊毛のブラシがあって、馬毛が埃落とし用、豚毛は栄養クリームを馴染ませる用、山羊毛が仕上げ用です。
そこまで本格的にアイテムを揃えずとも、自宅で靴磨きを実践してみたいという方は、馬毛ブラシでブラッシングしてあげるだけでも、革をマッサージする効果があるので、革本来のツヤが蘇ります。靴へのご褒美的な感じですね。
ーー革に適した栄養ってどんなものなんでしょう?
林田: 主に水分と油分を含んだクリームで、シューケアメーカーによって、水分と油分のバランスは様々なんです。化粧下地のような感じで、乾燥している革に馴染ませることが重要と言われています。
ーースキンケアみたいですね!革も生き物なんだよって言われてるみたい。
林田: そうですね、Brift Hで開発した栄養クリームなんかは28種類の成分が入っていて、スキンケアのベクトルで作られてるんですね。なので、肌と同じように、革のコンディションを確かめるために、栄養リクームは指で塗り込むのが一番適しているんです。
ーーなるほど。そんなお話をしている間に靴がピッカピカに!この光沢は美しい!!
林田: お客様の雰囲気や要望に合わせて光沢の具合を調整しているんですよね。キャラクター的には、ちょっと光ってても大丈夫かなって。出しすぎたかな。笑
光沢の具合にまでこだわりがあったとは!靴磨きの知られざる世界を垣間見ることができました。手間のかかることには、一つ一つ理由がある。その工程がなぜ必要なのか、林田さんの職人技を見ていると、すんと理解できる気がします。
靴磨きの習慣が浸透していくには、まだ時間がかかるかもしれませんが、北海道で靴磨き文化を発信し続けたいと林田さんは熱心にお話して下さいました。林田さんの靴磨き職人への道のりと挑戦について、記事は後編へと続きます。
<取材協力>
THE LOUNGE by Brift H
(ザ・ラウンジ バイ ブリフトアッシュ)
〒060-0062
北海道札幌市中央区南2条西5丁目31 MaW内
Instagram: @the_lounge_by_brift_h
取材・文|浅利 羽晶
Instagram|@nilamekko
編集|ナベ子(Sitakke編集部)